生死を走るヨット

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「今、岬にいるんだけど海が大荒れなんだよ。みんなでそっちに行ってもいい? コロッケ屋の隣で魚を食べようよ。」
油壺にクルーザーを置いているヨットマンからの電話。

ごうごうと風が渡る音にテラスに出てみると、パームツリーが右左に揺れて、そのむこうの逗子湾にはウサギが飛んでいる。
ウサギが飛ぶとは漁師言葉で、天候が荒れて白波が立っている状態。こんなときにヨットを出せば、体中にスプレーを浴びるのは必至だろう。

荒天の逗子

日焼けが怖いので最近は避けているが、3年ほど前までは週末のたびにヨットに乗っていた。
ハーバーから出艇して最初の作業は、メインセールを上げること。
次にジブセールを出してエンジンを止めれば、風と波の音だけがBGMになる。

海面から跳ね返る太陽の眩しさ。
クーラーボックスから缶ビールを回して、プシュッとプルトップを開ける音。
眼の高さに缶を上げての「かんぱーい!」。
ヨットに乗って良かったと思う最高の瞬間だ。

ところが今日のような荒天下では、真夏であってもビールどころか、生きるか死ぬかのセイリングになる。
3年前のお盆休みだったか、南房総の保田漁港に停泊していた時のこと。
天候は下り坂で、風雨もだんだん強くなってくる。出すなら今のうちしかない。

晴天なら水着にデッキシューズの服装だが、こんな天候だと濡れても水を弾く上下に、どんなに泳ぎ上手だろうとライフジャケットを着る。
倒れんばかりにヒールして走るヨットは、いつ海に投げ出されないとも限らないのだ。

漁港を出るとウサギが一面に飛ぶ灰色の東京湾。
たちまちヒールした甲板には半分海水が溜まり、顔を叩く雨と潮。
襲ってくる巨大なうねりを1つ、また1つ乗り越えるたびに、頭から浴びるスプレー。
冷えきった足元からは、震えがガタガタと上がってくる。
これだけじゃなく時には近くに落雷したり、今すぐ死んでもおかしくない状況が襲ってくるのだ。

スキッパーの横で、右に左に揺れながら意識が遠のく想い。やがて陸が見えてきた。
メインセールを下ろして、ハーバーの堤防内に入る。

ポンツーンに船体を寄せると、顔を見合わせて笑顔で「お疲れさまー」。
無事に帰ってきた! この一瞬が快感だからこそ、ヨットは楽しいんだと彼らは言う。

FM横浜からはお昼前のトラフィック・リポート。
皆そろそろ到着する時間かな。
今日は彼らのヨット談義で酒盛りになりそうだ。

ヨット

コメント

  1. やーさん より:

    僕も20年ほど前、真鶴がベースで海遊びしてました。
    ただ、セールボート派とは嫌いあうパワーボート派(笑

    ロングはせいぜい大島、あと真鶴ー初島スキーレース
    出場した事あります。

    今では海技免許もペーパーです。
    でも昔取ったから一番えらいヤツです。(^^)v

  2. こまちゃん より:

    会社の船に何度か乗りました。
    みんなはゆったりと。σ(^_^)は運転手。
    東京湾は横断出来ないのが癪ですよねぇ。
    特に時化た時。

    以前に下田のカジキ釣りで4mを超える
    ウネリに泣きました。
    運転手は酔わないんですが、皆は室内で死亡
    会社の近所で講習を受ければ3万円弱で
    出来るけど免許更新していないですねぇ。。。

  3. yuris22 より:

    やーさん

    わざわざ近くを走り抜け、引き波を残していくパワーボートはヨットの宿敵です!
    寄るな!来るな!と睨んでいたら、友達の船だったりする(^_^;)

    一番えらい海技免状って言うと1級ですね。ぜひハワイまで行って頂きたいものです。

  4. yuris22 より:

    こまちゃん

    そうそう、運転手は酔わないんですよね。

    私は小学生のころから父の船に乗っていましたが、船酔いの経験は一度もありません。
    でも二日酔いの経験なら毎週1~2度はあります(爆)

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