100円のお金が生きる世界

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日本の文化活動に著しく貢献した人物やグループに対して贈呈される、吉川英治文化賞。今年の受賞者の一人である垣見一雅さんは、16年前からネパール中部のドリマラ村に移住して、住民の生活の自立を支援している。

彼の年間スケジュールは、村人が建ててくれた六畳一間ほどの家に3ヶ月ほど住み、雨季の2ヶ月は資金集めに日本へ帰国。残り年間200日は毎日3~4時間かけて山岳地帯の村から村へ、ネパールの貧しい人々の陳情を聞いて廻っているという。
たどたどしいネパール語で話しかけていた当初、彼に付けられたニックネームは「OKバジ」。バジとはおじいさんのことで、村人たちから援助を求められると「OK」を連発したことから、こう呼ばれるようになった。

日焼けした穏やかな顔で「ナマステ」の挨拶を教えてくれたOKバジに、昨日はネパールの水事情について伺ったのだが、想像を絶する厳しさに驚いた。雨季の前はどこの村に行っても水がなく、洗顔などの身支度に500ccの水を貰うにも気がひけるという。なぜなら水を汲みに行くのに往復1時間、中には往復3時間かかる村もザラだからだ。

暮らしを良くして欲しいと国に対して要望を伝えられるのは、道路に面していて伝達の便がある村。ところがOKバジが廻っている奥地の村は、水のことばかりを一日中考えている、取り残された孤児のような「声を出せない村」だという。

OKバジが日本に戻り、まず勿体無いと思うのは蛇口から水が出ていること。蛇口を片手で止めたり緩めたりしながら、もう片手で顔を洗っていると、娘さんから「お父さん何してるの?」と笑われたそうだが、物のありがたみは「不足」して初めて知るのだと語る。

米がとれない村でサトイモばかりを食べていると、米に対する感謝の気持ちが生まれる。
コーヒーを渇望する月日が続き、インスタントコーヒーの飲める町に行けば、なんて美味しいんだと感謝する。町では12,000円で400kgの米が買えるので、お土産に買って帰り、村人たち皆に分けるのだそうだ。

水や米だけでなく、資金のない村は万事が不足だらけ。建物の絶対数が不足。従って医療施設や学校が不足。教師は給料を払って雇い上げないと来てくれないので不足。
そこで考えたのが、働き者のママさんグループたちにマイクロクレジット的な資金を与え、イモの苗や山羊・豚・水牛の貸し出しなどを行い、自己資金を増やす収入向上計画である。しかし協力してくれるのは民間のNPOや企業であり、日本政府や行政の支援はないという。

「ネパールは100円のお金が生きる世界なんです」
最後に再び両手を合わせ、ナマステの挨拶で締めくくったOKバジは、6月8日で70歳。タオルが絞れるほどの汗をかきながら、人々の幸せのために毎日1万5千歩も行脚する。
電車に乗りタクシーに乗りマイカーに乗る私たちに、不足しているものとは果たして何なのだろうか。

コメント

  1. 素浪人 より:

    >不足しているものとは果たして何なのだろうか。

    『「足りている」ことへの「ありがとう」』、自分も含めて。

  2. 大熊ねこ より:

    日本に生まれ日本で育ち、今の自分があるのですが、もし違う国や環境に生まれていたらどうなっていただろうと…答えの出ない思いにかられる事があります。
    水を得るために往復三時間の環境に生まれていたら…「他の国に生まれていたら」などと考えるだろうか。。
    多分、他の国の情報を得る機会が無い分、水を得る事だけに必死になっていたかも。。
    豊かな国に生まれ、情報にも恵まれている事を当たり前と思わずに、日々感謝の気持ちを忘れないようにしたいと思いました。

  3. yuris22 より:

    素浪人様

    満ち足りすぎている私たちは、飽食のあまり矛盾した行動を起こします。例えば、食糧難の時代がくると言われながら、人工的なダイエット食品を購入すること。栄養を与えてくれる食物への感謝どころか、敵対心を燃やしているように感じます。いつか天罰が下るような気がしてなりません。

  4. yuris22 より:

    大熊ねこ様

    OKバジこと垣見さんは、ヒマラヤトレッキングの最中に雪崩に遭い、九死に一生を得たそうなのですが、その時に荷物を担いでくれていたシェルパは遭難死したといいます。借りができたと感じてネパールへの移住を決めたそうですが、そんな辛い体験があったからこそ、今まで見えなかったものが見えたのでしょう。感謝の気持ちから生まれた決断だと思います。

    平成20年には支援金1,500万円が集まったそうですが、それは日本の市会議員の年収と同じ額です。票集め合戦に夢中な彼らの目には、何が見えているんでしょうね。

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