週に一度、季節の花束を抱えて近所のアンティークショップに遊びに行く。
おばちゃんと自称する素敵なマダムにコーヒーを入れてもらい、数時間のお喋りを楽しむためだ。
60年代の魔女みたいな服装が似合う彼女は、褒め言葉の魔法を使う。
「あなた最近泣いたことある?」
首を縦に振ればニヤリと笑って、
「それは若い証拠よ。歳をとると滅多なことでは泣けなくなるんだから。」
良かった、私は泣き虫だ。
人前では極力我慢してるけれど、悲しくても悔しくても感動してもポロポロと涙が出る。
金魚みたいに瞼を腫らした翌日は、周りに見破られないかと、コンビニに行くのさえ躊躇するほどだ。
おばちゃんは言う。「泣きたくても泣けない人がいるんだよ。」
彼女の友人は度重なるご主人の裏切りが原因で、ある日涙がピタッと止まってしまった。
長年の親友がこの世を去った時も、能面のような顔でお葬式に出ていたという。
感情の蓋に鍵がかかってしまった人。
父がお世話になっている介護施設でも、そんなおばあさんに出会った。
滅多に家族が訪ねてこない彼女は、何を思うのか私の周りをウロウロする。
「こんにちは、一緒にお茶飲みませんか?」とテーブルに誘うと、『だるまさんが転んだ』みたいにその場に立ち尽くす。
無表情のまま、穴が開くほどずっと私の顔を凝視しているのだ。
声をかける自分が、体裁を繕う偽善者になるのが怖くて目を伏せた。
触ってはいけない涙を見た気がして、胸がしょっぱかった。
アンティークショップは外が薄暗くなって、雑談もお開き。
コートを着る私に、おばちゃんがもうひとつ魔法をくれた。
「だけどね、好きな男の前では何度も泣いちゃダメよ。一度だけにしときなさい。」
う~ん、どういう意味なの?
答えはまた来週、春間近なスイトピーの花束を抱えて聞きにくるとしよう。
コメント
なかなか意味深な「魔法」ですね(o^-’)bこちらとしても来週が楽しみです♪
涙…大晦日に「ドラえもん」でのび太くんがタイムマシーンでおばあちゃんに会いに行く話をみて鼻がたれるほど泣きました(;^_^A
こんにちは、はじめまして。歳を重ねるごとに
涙がでなくなる、歳を重ねるごとに
素敵な女性でもありたいですね。
ヒューマンドラマや、実際あったドラマに
感動します。
新潟の映画「マリと子犬の物語」も
必見です。今年も、記事楽しみにしています。
シンジ様
おーっ、「どらえもん」ですか!
おばあちゃんネタは私は何を見ても泣いてしまいます。
注いでくれた愛情に感謝したいと思う時には、この世にもういない(;_;)
でも空の上から見守っていてくれることに、今は感謝です。
アフィリエイター善子様
いらっしゃいませ(^_^)
紅白歌合戦で、山古志村からの中継。
除夜の鐘の音に手をあわせる人々の姿には涙が出ました。
この世にいる魂、空の上にいる魂・・愛情が集まっていました。
「マリと子犬の物語」。
涙腺の弱い私は泣いちゃうでしょうけれど、見てみますね。