書き下ろし短篇『アラサー女子と天気予報の彼』

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金曜日の残業が終わったオフィス街。まっすぐ帰るのは淋しいので電車のガード下を歩き、赤提灯の焼き鳥屋さんに寄った。食欲をそそる芳ばしい煙が立ち込める店内はサラリーマン男子で超満員だ。
「おう、いらっしゃい! そこのお客さん、ちょっと詰めてあげて」
見慣れた作務衣のマスターがカウンターの端に作ってくれた席には、速攻で生ビールが出てきて、黙っていてもお皿に鳥皮、レバー、ねぎま・・とお気に入りの串が並んでいく。

きついパンプスの踵をゆるめたらスマホをチェック。午前中に届いたメールにまだ返事をしていない。
「朝起きたら太陽が出ています。関東は梅雨が明けたみたいですね。今日は何時ごろまで仕事ですか。疲れが溜まっているでしょうから熱中症に気を付けて下さい。」
あれっ、夕方にもまた来てる。
「怪しい雲が出てきました。雨が降りそうだから帰りは気を付けて下さい。」

 

メールの男性とは3カ月ほど前にSNSで知り合って、直接会ったのは2~3回。見た目や性格は悪くないし、腕を組んで歩いたこともあるのに、好きというワクワク感が湧いてこないのは何故だろう。金曜日の夜だって彼とのデートよりは独りで焼き鳥屋の方が気が楽なのだ。
「残業で忙しいのでまだ帰れません。」
冷たく一言だけ書いて返信ボタンを押した。

同期が立て続けに結婚していく中、取り残される焦りが出てきたアラサーウーマン。親戚が持ってくる見合い話は突き返し、今さら社内恋愛するにも周りは既婚者ばかりだ。会社にばれないよう密かに始めたSNSで見つけた男性からは、毎日お天気の話題ばかり。返事に困るし、しかも今夜が残業なのは昨日のメールで言ったはずでしょ。鈍感か、コイツ!

 

外はゴロゴロと雷が鳴って、激しいにわか雨が降り出した気配。会計を済ませ走って駅に向かうと、改札口には駅員を囲む人だかりができて騒がしい。架線事故で電車が止まっているらしく、午前0時を回ったというのに「復旧の見込みは立っておりません」と何度もアナウンスが流れる。どうしよう、会社に戻ろうか。でも金曜の夜は完璧に鍵が閉まってる。

 

するとポケットのスマホが振動した。彼から「雷雨警報が出ています。仕事が終わったら気を付けて帰って下さい。」とまたKYなお天気メールだ。雷雨は分かってるし「電車が止まってるので帰れません。」と怒りの返信をして、もうこの人とは二度と会うのを止めようと決心した。

しかしその後もメールは続く。
「大丈夫、必ず帰れます。」「あなたが無事に帰れることを僕は信じています。」
何なの、占い師なの!?と怒って文字を打ちこんでいる時、後ろから肩を叩かれた。大きな傘を持った彼が嬉しそうに立っていて、大通りには停車灯を点滅させたタクシーが待っている。

我が家まで向かう帰り道、「風邪はひいてないですか?」と気遣う彼。ゲリラ雷雨を心配して会社の前にタクシーを停めて待っていたところ、電車が止まったと書いた私のメールから察して駅まで車を回したらしい。その照れ隠しに「今夜は雷雨警報だから」「でも明日は晴れますよ」と相変わらず意味のないお天気ネタばかり。酔っぱらって焼き鳥の匂いをプンプンさせている私は格好悪すぎて、家に着くまで「そうね、そうよね」と相槌を打つしか出来なかった。

 

送り狼にならず、彼を乗せてそのまま引き返すタクシーのテールランプが遠ざかっていく。本当にいい人なのにまだ好きかどうか分からない私。正直で不器用で我儘なのは我慢してもらうとして、いつもより長いメールを送るね。
「今夜はありがとう。雨が降ってますが、日曜日は七夕ですね。織姫・彦星のように年に1回とはいわず、私たちは週に1回ぐらい逢うことにしましょうか。今度のご予定はいかかですか?」

その1分後に返信が来た。
「日曜日は快晴です。あなたは僕に120%逢えますよ。」

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毎年7月7日に書いている小さなラブストーリー。今回で7回目です。
恋愛が奥手でメール下手な男性をテーマにしてみましたが、何かの拍子に心が伝わる一瞬ってあるものだと思います。日曜日の七夕。揺れる短冊の下をデートするカップルは素敵な記念日になりますように。

コメント

  1. marie より:

    「日曜日は快晴です。あなたは僕に120%逢えますよ。」
    これ、いいですねぇ。
    大好きな人に言われたら最高ですね。
    幾つになっても恋は出来ると思います。
    恋は魔法です。
    「明日、会える・・・」と思うだけで女性はキレイになれます。

  2. yuris22 より:

    marie様

    「一目惚れ」とか「恋に落ちる」とか、考えるだけでワクワクしますね。
    いつも物語のヒロインでありたいのが「女」という生き物だと思います。

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