雨模様の七夕。年に一度しか逢えない織姫と彦星の遠距離恋愛は、今夜は叶いそうにない。
ずいぶん昔の話になるが、妻子のある人を好きになったことがある。
大阪に家のある彼は、月に1~2度の割合で東京に出てきて、六本木の俳優座近くにマンションを借りていた。
表通りを堂々と歩けない私たちがデートをするのは、決まってその部屋。
白ワインを注ぎあって灯りを消し、窓の外に輝くオレンジの東京タワーを見ながら、刹那的な時間を過ごしたものだ。
全ての音を消し、ただ寄り添っているだけが最高の贅沢。それ以上は望まない。
ある晩、ひどく酔った彼が大阪から電話をしてきた。
「あいつに全部話したら、家を飛び出して行った。僕と結婚してくれる?」
唐突なプロポーズ。
内心は嬉しかったのに私は曖昧にはぐらかし、もっとよく話し合って下さいと優等生の返事をした。
そして数日後、彼がもう二度と東京には泊まらないという約束で、夫婦は家庭を再開した。
六本木の部屋を引き払う夜。
最終の新幹線の時刻が近づき、霧雨に煙った東京タワーにも別れを告げて窓を閉める。
東京駅まで見送りに行った私の手を握って、彼はため息をつき首を横に振った。
「電車が出ちゃうよ。早く乗って。」
「いいんだ、タクシーで帰るよ。もっと一緒にいたい。」
新大阪行きの最終が走り出し、2人はホームに残った。
どこへ行こうか。駅の外で拾ったタクシーを、私は自宅に向かわせる。
駐車場で自分の車に乗り換え、彼を助手席に乗せてセルを回した。
無言のまま走る東名高速。アクセルを踏み込むほどに切なさも加速する。
ホテルを取ろうという申し出を断り、名古屋で彼を降ろして、白い朝の中を東京へと戻った。
左端の車線をゆっくりゆっくりと、自分を励ましながら。
後にも先にも遠距離恋愛はこれっきり。
ハッピーエンドをつかみ損ねた織姫。あの日の東名高速は、雨が降る天の川だった。
コメント
なんだか、切ないですね・・・
ワタシは、夫に浮気をされたほうです(笑)
夫婦で、同じ会社で働いていて、
相手は、外注先のコピーライターでした。
スタッフは全員知っていて、
知らなかったのはワタシだけ・・・
そして、別れたのはこちらのほうで、
夫と、仕事を同時に失いました。
人生イロイロですね。
立場は違っても、切ない気持ちは同じですね。
今年の七夕は「777」
ハーモニックシフトの日と言われています。
yuris22さんに、運命のひとのご縁が導かれますように☆
人一倍、酒が好きなσ(^_^)は、
バクチもやめ、女遊びは全くしません。
目の前にある幸せが逃げちゃうから。w
当事者は本気なのかも知れませんが、
参考は2ch界隈で話題になるスレ。
必ずよりを戻してハッピーエンドですよね。
作り話だって、誰もが望む結果。
でも「刹那」って言葉がピッタリ過ぎて切ない。
besnow様
ハーモニックシフトの日ですか。
今年は金猪年でもあったり、特別なことが多いですね。
>yuris22さんに、運命のひとのご縁が導かれますように☆
ありがとうございます(^_^)
これまで貰ってきた愛の数に掛け算をしながら、
触れ合う人たちに幸せをあげたいと思っています。
こまちゃん
2chの恋愛スレ、さっそく見に行ってきました。
拾ってきたのは↓の発言。
『もう、どうすればいいのか。
どうしたいんだろう、私 』
切なさの的を得た言葉だと思いました。
また、コメントさせていただきます。
>『もう、どうすればいいのか。
どうしたいんだろう、私 』
ほとんどそのままある人に言われました(^_^)ゞ
僕がその人の気持ちを疑うようなことを言ったからです。
「雨降って地固まる」じゃないですけど、それからまた絆は深まった気がしますが・・・。
人の気持ちは深すぎて、yuris22さんのこのときのお気持ちも、とても「わかる」なんて言えるものではなく、察するよりほかにありませんが、本当に我がことのように切なく読ませていただきました。
どうして、プロポーズ受けなかったのかな、って勝手で素朴な疑問を感じたり・・・。
こんにちは。
小説を読んでいるようでした。
終電間際の新幹線ホーム、深夜の東名高速。
引き込まれてしまいましたよ。
遠距離恋愛、遠い昔に経験あります・・・。
Shin様
恋愛って、後から考えて「ああすれば良かった、こうすれば良かった」と後悔することが多いですよね。
自分のことが見えないのです。
あのときプロポーズを受けていたら、今頃しあわせ肥りしたオバサンになってたかもしれません。
単身赴任のYH様
相手を思いやったのか、遠慮しすぎたのか、恋愛は距離が離れると戸惑いの振幅が大きくなります。
新幹線でなくても最終電車のホームは、今も切なくて苦手です。
天の川に、流れ星・・・
静かに輝き 刹那に消える
その輝きは
地上の織姫と彦星達の「歓喜」それとも「涙」?
天の川は、そんな星たちもつつんで
悠遠な宇宙で、静かに流れる・・・
詩人たそがれ様
週末の星空コンサートで、久しぶりに七夕飾り
を見ました。
短冊に願いを書いた子供の頃が懐かしい。
今だったら何を願うだろうと、しばし眺めてお
りました。