フレーフレー!えびす様!

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そろそろテレビを消して寝ようかという深夜に携帯が鳴った。着信名を見ると、数年前まで都内の居酒屋仲間だったGさん。還暦を過ぎたころのバツイチ男性で頭はツルツル、太鼓腹の太っちょさん。ヒゲをはやして釣竿をかつげば「えびす様」そっくりな容貌だ。長く患っている糖尿病はどうしたかと、時折り思い出しては気になっていた。

懐かしい名前が嬉しくて陽気に年始の挨拶をしたところ、酔っぱらった半泣きの声が返ってきた。
「織田さん・・・、今まで世話になったね。本当にありがとう、ありがとうね」
どうしたのかと尋ねると「淋しくてたまんないんだよ」と言葉を詰まらせる。まさか首でも吊る気かと驚いて、とりあえずは他愛のない話をしながら相手の出方を伺った。

江戸っ子のGさんは恵比寿ガーデンプレイスの近くに住み、代々建築関係の小さな会社を営んでいた。それが区画整理を機に会社をたたみ、これからは隠居して農業をやるんだと、千葉県の田舎に土地を買って引っ越していった。自分で家を建て畑を作り、外房の海へ金目鯛を釣りに出かけて毎日がサンデー、悠々自適の独り暮らしだ。

「でかい家だから泊まる部屋はいっぱいあるよ。旨いもの用意しておくから、みんな遊びに来てよ」
Gさんは転居後もちょくちょく都内の居酒屋へカムバックしては常連たちを誘ったが、本当に遊びに行ったのはごく親しい数名だけだったらしい。
「君たちは蕎麦屋の出前以下だなあ。行く行くって快い返事だけで全然来ないじゃないか」と怒られながら、やがて私も逗子へと引っ越してしまった。

携帯の向こう側で半泣きも落ち着いたころ、Gさんは「あの時は楽しかったなあ」と、千葉へ越す前に大人数で行ったお花見の話をする。
「僕ね、織田さんが好きで好きで仕方なかったんだよ。お尻に触りたかったけど、そんなことしちゃ嫌われるから一番端っこに座ってたんだ」
へえぇ、まだ触りたいと思われるお尻なんだと大いに照れながら、Gさんの誕生日に花束をプレゼントしたときのことを思い出す。ずっと昔に離婚した奥さんはおろか、女性から花束を貰うなんて初めてだったらしく、私からの愛の告白かと舞い上がった。有り得ないよ!と居酒屋の常連たちに大笑いされ、それ以来Gさんは隅っこで小さくなっている分際なんだと思い知ったという。

そして今は千葉の家に、行き場の無くなった元妻を呼び寄せて暮らす毎日。離婚原因は
浮気した妻にあったくせに財産の半分を分けてやり、同居生活に愛は無くても面倒を見ている。淋しがり屋でお人よしでいつもババを引いて、この間は飼い犬にまで噛まれたと聞いて胸が痛んだ。
「僕はね、周りの人たちを幸せにしてあげたいんだ。少しでも役に立てたら本当に嬉しいんだよ」
私は「うんうん」と頷いて「そういうGさんが大好きだよ」と答える。1時間ほど話を聞いたあと、Gさんは「またみんなと居酒屋で飲もうね。出かけていくからさあ」と電話を切った。

すると10分後にまた着信。宅配便の送り状を自分の所へ送ってくれと言う。意味が分からず何度も聞き返したら、「家で採れた野菜や外房の魚をこれから毎週送るからさ」と気前のいい申し出をしてくれた。それはそれは、食糧難の時代が来ても喰いっぱぐれることはなさそうだ。淋しさで彼が首を吊ることもなさそうだと一安心である。

お礼を言って電話を切れば、またまた5分後に着信。話は一言で終わった。
「織田さん、大好きだよーっ!愛してるよーっ!今度こそお尻を触らせてね」、プツッ。
希望を叶えてあげられるかどうか分からないが、フレーフレーGさん!!! ありがとう!
えびす様みたいな貴方の心をずーっと応援しているから、うんと長生きしてくださいね。

コメント

  1. marie より:

    良い方ですね。
    人間関係はとても難しく、特に同性との人間関係は大変ですよね。

    実は、今の職場は女性が多く「妬み、僻み・・・」とまぁ、恐ろしいです。
    本当に信用出来る人って少ないです。
    正直、人間不信に陥ってます。
    ただ単に自分が世間知らずだっただけかもしれませんけどね。
    「世の中、本当に信用出来る人は少ない・・・けれども人間は一人では生きていけないのも事実・・・」

  2. yuris22 より:

    marie様

    お疲れ様です。親族も含め、裏表なく分かり合える人って、これまで生きてきた中で何人いるんでしょうね。尽くしてきたのに裏切られるパターンが多いかもしれません。でも落ち込んだ結果を自分のせいにする必要はなく、「心をオープンにすべき相手ではなかった。フンッ!」と思えばいいんじゃないでしょうか。
    強くいきましょうよ!
    marieさんは周りよりもちょっとだけ経験値が豊富なのかも。大事なのは他人の顔色よりも自分の心の健康です。つまらない妬み・嫉みに対するセンサーをシャットアウトして、おおらかにニュートラルでいて下さいね。

  3. 的は逗子の素浪人 より:

    何度読んでも思う。是非、幸せになってほしい!

  4. yuris22 より:

    的は逗子の素浪人様

    いつも周りに気を配って、自分が引いちゃう人なんですよね。でも彼の口から不平不満とか他人の悪口は聞いたことがありません。今まで辛かった分、きっと幸せになれますね!

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