カメラをめぐる時代たち

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今は無き実家から引き継いできたアルバムを、暇なときに開いてみるのが独りの楽しみだ。台紙に糊で貼り付けられた古い写真たちには、私よりも若い祖父母や親戚たちが黒い髪で写っている。モノクロの写真は、家族の幸せを演じている映画俳優かと思わせるような遠い時代だ。

光TVで、玉木宏&宮崎あおい主演の『ただ、君を愛してる』という映画を見た。
同棲していながら恋人関係にまで至らなかった二人が、大学卒業後に辛い再会をする物語なのだが、軸として流れているのはカメラに魅せられた二人の生き方だ。

今はデジカメが主流となり、暗室で現像した写真を洗濯ばさみで吊り下げる作業は無くなったかもしれないけれど、そんなスローな作業がこの映画ではとても生き生きとしていた。撮った結果が浮き出てくるまで真剣に待つ時間が、アナログだからこその贅沢なのだろう。

アナログの写真にはマジックがあったと思うことがある。
DPEに回したフィルムの現像が上がった時、袋に入ってきた写真を取り出すのは、先生から返ってきたテストの採点を見るようなドキドキ感。どうしてこんな写りになったのかと、ネガを透かして種明かしを探す。そのネガもやがて劣化して現像できなくなると、アルバムに貼った一枚だけが宝物になる。

主人公の玉木宏が愛用していたカメラは、キャノンのフィルム一眼レフ。私の父の部屋には同様のカメラが飾ってあったが、柔らかな布でパーツの一つ一つを愛おしむように拭いていたのを思い出す。

そんな精巧なパーツを作り出す魔法の手たちも、デジタルカメラにおいてさえ不況のために職を失っていく。大分キャノンでは請負会社等との契約を更新せず、請負社員ら1千人規模が削減される見通しとなった。
工場を去っていく職人たちが作ったカメラから、いったい何万、何億枚の作品が生まれたことだろう。彼らの無念の涙もいつかは遠い思い出になるのだろうか。

見終わったアルバムを閉じて、部屋を後にした。
「よーし誰も居なくなったぞ」と、切り取った時間枠の被写体たちはページを行き来しながらお喋りし、昔のままに生活しているのかもしれない。
古き良き時代に一瞬でも仲間入りさせて貰えたらどんなに楽しいだろう。私たちは切ない時代の変遷に生きている。

コメント

  1. 素浪人 より:

    「フィルム一眼レフ」…なんともいい響きか。このカメラは、時間の流れの一瞬を切り出す。
    そのシャッターを押しこむ瞬間は、神の一瞬だ。
    だれも教えてはくれない共鳴の一瞬。だからこそ、その一枚が貴重なのだ。

    デジカメは大変便利だけど、時間を切りだす緊張感がなくなった気がするなぁ。

  2. yuris22 より:

    素浪人様

    撮ったその場で結果が見えて、気に入らなければ何度でも撮り直しができるデジカメは、「ズル」してるって感じがします。
    とは言っても私にはフィルム一眼レフを扱える技術はなく、デジカメの初心者モードがやっとです。それでも究極の一枚は一生の宝かな。

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