永久保存版にしたい店

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小田原の小さな神社の向かいに、久しく行っていない居酒屋がある。昔の彼が強羅の別荘に行く途中、仲間を引き連れて必ず「大学に行くぞー」と立ち寄った赤提灯。古びた佇まいの「大学酒蔵」という地元ながらの店だ。

暖簾をくぐり引き戸を開けると、コの字型カウンターの中で「いらっしゃい」と迎えてくるのは、腰が曲がり気味な看板おじいちゃん。80歳は超えているはずなのに、立ちっぱなしで場を仕切り、お客の顔と名前も覚えている。持ち場の仕事は、そろそろとした手でお酒を用意すること、奥の厨房に注文を伝えて皿を受け取ること、そしてお勘定。長年の勘かお客の懐具合には目が利いて、羽振りが良さそうな社長さんには「今日はカワハギがいいよ」のセールストークも忘れない。

銀座じゃ引いてしまう高級魚がなんのその、壁に下がった値札を見て驚くなかれ。新鮮な相模湾の刺身(この店の母体は魚屋)は高くて500円程度、あんこう鍋は1,000円程度だったと記憶している。カウンターに並んで皆で皿をつつけば、おじいちゃんが「おいしいっ!」の声を今か今かと待っている。

強羅に行くときには必ず誘う温泉仲間、有名なF1解説者の弟さんも現れて「ここのコロッケはウマイんだよ」とジモティの常連ぶりを発揮する。漁師さんやディーラーの社長、ご隠居さん・・、紹介して貰った面々が会話に加わり、コの字型カウンターがまるで円卓のように和んでいく。

さてさて、画像もないのに何故この店を記事に載せたか。懐かしくなって去年の6月に訪ねた時には、運悪く定休日だった。再チャレンジの今回は、関西から出張帰りの友人と待ち合わせて行くことに決め、ヒルトン小田原リゾート&スパも予約した。金曜の夜に庶民とハイソの両極端を楽しむ予定だったのが、急に友人の都合が悪くなりキャンセル。たかが電車で1時間程度なのに、どんどん遠くなるのは何故だろう。

おじいちゃんが健在なうちに「私の顔、覚えてる?」と行かなくちゃ。心の中で永久保存版にしたい店である。

追記:
この記事を読んでお店を訪ねてくれた方から画像を戴きました。ありがとうございます。

大学酒蔵

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