ダメ男をひきずる女心

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口角の上がった唇に、真っ赤な口紅がよく似合う彼女は63歳。波しぶきがかかりそうな港の縁に建つマンションで、毎日海を見ながら独り暮らしをしている。
「朝になるとね、富士山に太陽が当たって一瞬だけピンク色に染まる時があるの」
いつも素材の良い服を着て、自分のことを「わたくし」と呼ぶ育ちのよさ。数年前に都心から越してきた理由を「主人を亡くしたから」と言っていた。

お酒が強いわけじゃないけれど、毎晩ワインを欠かさない彼女は、酔うと少しずつ本音を漏らす。実は今年の初春まで、週末になると通ってくる恋人がいたという。アート関係の会社を経営している彼は65歳。夫に隠れての恋愛期間まで含めると、35年もの付き合いになる。「僕は楽しく遊ぶために働いているんだ」が口癖で、女遊びと賭け事が大好き。ビジネスセンスは秀でていたので、都内の高級マンションに住みメルセデスを乗り回すくらいの資金には困らなかった。

浮気されるのには文句が言えなくても、彼女は未亡人になった時、彼との同居を望んだ。仕事が忙しいから週末婚にしようという話になり、夫の遺産でリゾートマンションを購入して新しい生活をスタートした。金曜日になると美容院へ行き、高級マーケットで食材を選び、ワインを冷やして彼を待つのが習慣だ。
「彼は月に5万円くれるのよ。これでやってくれって。生活費が5万円で足りるわけないって、男の人は分からないのかしらね」
収入の見込みがない彼女の貯金通帳は、マイナスの記帳ばかりになっていく。

そして1月の終わり、春が近いというだけで気持ちが浮き立つ金曜日。一抱えのチューリップを花瓶に生けて、彼女は時おり外を伺いながらキッチンに立っていた。思ったより早い時間にチャイムが鳴る。荷物も持たずにやってきた彼は、タクシーを待たせたまま合鍵をテーブルの上に置いた。
「君を幸せに出来なくなった。ごめん、ここにはもう来られない」

理由は驚く内容だった。会社の経営が悪化して、銀行からの融資も得られない状況。行きつけのバーでよく出会う資産家の女性から資金援助を受けることになったという。彼より5歳年上で、見た目は皺くちゃな老婆。独りでお金を溜め込むのを生甲斐としてきたその女性は、恋愛関係になることを条件に札束を積んだ。

晴天のへきれき。待ち人来たらずのマンションに取り残された彼女は、2杯目のワインで溜息をつく。
「35年も付き合ってきたのよ。いつかは一緒になれると思って。引退して年金暮らしだって幸せなのに、あの人は私より仕事を選んだの」
聞けばここ数年、彼の求めに応じて高額のお金を貸していたという。慣れ親しんだ腕に抱かれる幸せを失いたくなくて、景気が上向けば倍にして返すという言葉に頷いた。「すっからかんになっちゃった。大事にしてくれた夫を裏切った罰よね」と陽気に笑ってみせる女心は、逞しそうに見えて本当は震えている。

先週の金曜日、東京へ出かけた彼女は弁護士立会いのもとに彼とその女性に会った。なんと彼は、付き合っていたころ彼女が買ってあげたシャツを着ていたという。貸したお金を少しでも返して欲しい気持ちが萎えてしまった・・。寄り添う二人の姿に吐き気をもよおし、その場を放り出して家に戻った。

お金の匂いに寄っていく男。若いジゴロならあり得るとしても、65歳の男が70歳の女に擦り寄っていくのはどんな心境だろう。彼女には今でも月に数回は無言電話がかかり、受話器の向こうに彼の気配を感じるという。未練があるということか。

リゾートの賑やかさに気を紛らわせた夏が終わり、パームツリーにも秋がやってくる。今日はラブコメディのDVDを持って、彼女のマンションに押しかけよう。お得意の料理をお腹一杯食べさせてねと、図々しい女友達が金曜日のゲストである。

パームツリー

コメント

  1. 的は逗子の素浪人 より:

    ジゴロ? ジンゴロウ? うッ…魚か?

  2. たけぞう より:

    yuriさん、お久しぶりです。

    なーんか小説になるような話。
    実際はつらくて、つらくて、つらいんだろうなあ。

    よい5連休を!
    (なーんかシルバーWeekってネーミング、辛気くさいですよね)

  3. yuris22 より:

    的は逗子の素浪人様

    ジゴロという言葉に極端な反応を示されますね(笑)
    男性にとっては一度はやってみたい職業(?)なのかもしれません。

  4. yuris22 より:

    たけぞう様

    お久しぶりです。
    彼女を連れ歩いて、飲み屋4軒のハシゴをしました。常連たちに話し相手になってもらって、鬱積したものが発散できたようです。家に篭ってると過ぎたことばかり考えてしまいますからね。女だって外に出なくちゃ!
    かく言う私は、シルバーウィークはどこにも行かず、猫の相手で終わります。あー、辛気くさー(爆)

  5. marie より:

    ダメ男を引きずる女心・・・。気持ちはわかります。
    けれど、お金の為に70にもなった女性を選ぶ男ってどうなんでしょう。
    お金を餌に70にもなって自分との肉体関係を持たせるなんて、すごいですね。
    夫が居ながらも、長い付き合いをしてきたということはやはりそれだけ愛情があったんでしょうね。
    お金を貸すのは抵抗がありつつも、彼との関係を切らしたくないと貸し続けた結果がそうなってしまうとは・・・。
    やはり、世の中は肉体関係とお金はセットなんでしょうか。
    「セックスがあるからお金が動く世の中」「体の関係があるから沸いてくる嫉妬心」
    そんな風に切っても切れない関係があるんでしょうけど、なんだか男と女って寂しいものですね。

  6. yuris22 より:

    marie様

    セックスの現役が何歳まで続くかは人それぞれですが、そこに金欲まで加わると不潔な感じがしますね。彼女はその男性のことを「気持ち悪くなっちゃった」と言ってました。もし悔い改めて戻ってきても、復活はありえないでしょう。女の場合、相手が生理的に嫌いになると終わりです。
    男性は元カノとの写真をいつまでも取っておくのに対して、女性はあっさりと捨ててしまうのは、そこらへんに理由があるのかもしれません。

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