恋に突っ走る最終電車

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都内の仕事や飲み会で遅くなって電車に飛び乗り、逗子駅に到着するのは上手くいくと夜11時半ごろだ。タクシーに乗らず、小坪経由鎌倉行き11:34の最終バスに間に合えば儲かった気になる。バスさん、待っててね!とホームから階段を上り下りして改札口に向かうと、1番線には品川行の最終電車が発車を待っている。「上り最終です。お急ぎくださーい!」のアナウンス。そこで思わず立ち止まる。

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改札を出てロータリーに走らなきゃいけないのに、上りの電車に飛び乗りたい焦燥感に囚われるのは何故だろう。ドアが閉まるよ!!、さあ今だ!!、走って飛び乗って!!と急かす声。ずっとずっと昔、恋に夢中だった19歳の私が背中を押しているように思うのだ。

恋にうぶい。この秋に楽しみにしているTVドラマは「今日は会社休みます」。30歳の誕生日までバージンだったOLが、9歳年下の大学生と恋に落ちる物語のウキウキ感がたまらなくて必見だ。

お嬢様学校育ちだった私に初めて彼氏ができたのは大学2年生のとき。帝国ホテルで開催したソーシャルダンス・パーティーに、場違いなジーンズ姿で来たイケメンと踊るように先輩から命ぜられたのが始まりで、私は彼に一目惚れしてしまった。バイトしている青山のバーガーショップに偶然を装って訪ねていき、やがて手をつないで帰る仲になったのである。

そのころ私は東横線沿線のマンションに住んでいた。鎌倉の実家から広尾の大学までは通える距離だったけど、父の会社を手伝っている母と一緒にいるという条件で東京暮らしを許してもらえたのだ。もちろんそれには魂胆がある。毎日とは言わずとも母は義務として祖母のいる実家に帰らざるを得ず、帰宅が決定した時点で私は思い切り自由な時間を得る。母が鎌倉へ帰るのかどうか、マンションでテレビを見ながら私が作った不味い夕飯を共にして、「今夜は帰るわね」と母が車のキーを手にするまでは判断が付かなかった。

よーし、ラッキー!母が出ていった後にすぐさま身支度と学校の用意を整えて、彼の部屋に電話する。最終電車、迎えに来てくれた京王線の駅で待ち合わせ、二人でアパートの端っこのドアを開ける瞬間は至福そのものだった。彼と同じ大学だった隣人には薄い壁を隔てて相当の迷惑をかけたと思うが、初めての恋人が好きで好きで好きで・・・どうしようもなかったのである。しかし・・。

燃え上がった初恋でありながら、大学4年で別男性に目が眩んで婚約してしまった私。ホテルオークラでの華々しい披露宴も意味なく数年後には離婚と至り、そのまま独身を貫いているオバサンがここにいる。

そして今は猫と暮らす逗子のホームタウン。こんなに年月を経たのに、上りの最終電車に飛び乗りたい衝動を止められないのは何故だろうか。誰かが待っていてくれるの?最終の行きつくとこまで行きたいの?帰れなかったらどうするの?
ずっと答えは出ないまま顔を上げ、改札口でスイカをタッチする。23時34分の鎌倉行き最終バスに間に合って、玄関で待っている与六ニャンに満足するのは、思い出肥りな女の行く末なのだろうか。

このブログで恒例としている七夕の書下ろしラブストーリー、別れちゃったしょっぱい味の思い出を甘い味に摩り替えて、来年のネタは決まったと思う。せめて夢の中だけでもみんな未来のハッピーエンドが好きなのだから。

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