スーツからジャージに着替えて、ワインをお供に映画でも見ようかなの時刻。ダイニングテーブルに置いた携帯電話が鳴った。ガヤガヤと賑やかなバックグラウンドと共に、聞きなれた声が誘ってくる。「もしもし、ゆりちゃん。今どこにいるの?ちょっと出てこない?」
今夜も酔っている陽気な声の主は、私が住む町では市長以上に有名なオジサマ、否お兄様。某ボランティア団体を通じてお知り合いになってから、飲み仲間として携帯に登録されてしまったらしい。
「えーっ、もうパジャマだし、ご飯は食べちゃったし・・」と、家でゴロゴロしていたい現状を伝える。しかし敵もさるもの、私が躊躇するのはお見通しであって、再度フルメイクして飛び出したくなるような餌をぶら下げてくるのだ。
「隣にいるのはね、○○○○の専務で海外経験が長いんだよ。○○大卒で語学堪能だしエスコートが上手くて、ほら『プリティ』なんとかのリチャード・ギアそっくりだよ。」
「○○ちゃんって知ってる?奥さんが亡くなったあと、30代の美女たちと半同棲状態でね。みんな銀座の一流ホステスだったのに彼を慕ってクラブを辞めたんだ。彼は大台を超えてもアッチは現役だし、石田純一みたいに純な愛情を注ぐ男なんだ。一度会ってみたくない?」
「インディ・ジョーンズみたいな冒険家はどうかなあ? なんちゅうのかヒゲが似合って、セクシーって言うの? 身長190cmぐらいあって、歳より20歳ぐらい若く見えるよ。来年の赤道直下の国への旅行は、彼に案内してもらうんだ。」
断っておくが、私はボーイフレンドを紹介して欲しいなんて、一度も持ちかけたことがない。それでも冷凍エビよりは青磯目みたいな餌を私にチラつかせるお兄様が愉快なので、騙されたふりをして飲み会に参加することにした。で、で、どうだったって!?
リチャード・ギアは・・フサフサとした白髪のみがそっくりで、顔はアチャード・シワ。
石田純一は・・深夜でもハゲ隠しのキャップをかぶり、お掃除のおばちゃんとアッチッチ。
インディ・ジョーンズは・・奥さんが貯金と共に逃亡して、今や昼間から年金で呑むアル中。
お兄様ーっ、紹介するなよーっ(–;)
話半分どころかマグニチュード8ぐらいの予感が的中。私1人ではブチ切れるのが目に見えているので、ご近所のバツイチ女友達を連れていったのが功を奏した。彼女が石田純一モドキと電話番号を交換し合ってるのを見ると、にわかキューピットの矢が適切にハートを射たのだと思う。
心から彼女に贈る言葉は平凡ながらも「良かった良かった(^^)!」。結婚して別れて、恋に失敗して充分に歳を取って、これからは恋人よりは「酸いも甘いもかみ分けた」ボーイフレンドでいいじゃないの。
友人の未来に目尻を下げている私にお兄様が一言。「一回でいいからゆりちゃんと、いたしたいんだよー。女は70歳を超えるまでは現役だ!」
ありがとうございます。70歳までの長期計画を戴いた私は、これをぜひともお兄様の奥様(超美しい元モデルさんです)に打ち明けよう。嫉妬して下さいねってイタズラ心で・・。男女は刺激しあいながら、揺るがぬ愛を確かめ合いながら、それでも不安を抱きながらのエトセトラエトセトラ、恋する気持ちこそが命の燃料だと思うからだ。
さあて、収まる場所に愛を収めるのが仕事の私は、これからどうなるかなあ。冬に向っているのに『星の金貨』の如く、どんどん薄着になっていく。全てを周りに与えきった後に、天から降り注いでくる金貨を更に誰にあげようかと考えるお人好しである。
コメント
>冷凍エビよりは青磯目みたいな餌
笑いましたw
本当に面白い友達に恵まれてますね。
こまちゃん
酔っ払った上での間違いなんて起きようがありません(笑)
本当に安全に飲める町だと思います。
みんな大人なのかな。。。
50歳でお互い家庭があって、そこに居場所があって、なんとかやっている生活。
でも時々どうしても会いに行ってしまう、高校時代のクラスメートに。なんだろう。。
bun様
いいなあ、高校時代のクラスメート。女子校育ちの私は、会いに行きたいクラスメートがいません。同窓会や学年会で集まれば、亭主の自慢と子供のお受験話ばかり。あのころ夢をいっぱい持ってたあなたは何処へ消えたの?と淋しくなります。
それに対して男性方は、どんなに頭の風貌が変わっても(ゴメンなさいっ)、心は昔のままでいる人が多いと思うのです。
アイデンティティとは何だろうと考えてしまう秋の夜。青くさい本音で話せる相手が少なくなりました。
そうなんです。。青臭い話しばかり。。でも最後は元気がでるというか。。お互い明日から又がんばろうって。。
それでも悲しいかな、男とおんなになってしまう時間があって。。昔昔好きだった人。。昔々遠くの大学へ進学して文通していた人。今も大好きなひと。。。おかしいですね。