秋雨に物想いそれぞれ

広告

朝から静かに降り続く雨。書き物をする私の足元で、与六が「ニャ」と何かを懇願している。「雨だからね、お散歩はダメよ」と答えると、「ウー、ニャゴゴゴ」と不満そうな声を出し、尻尾を立ててウロウロ。退屈のあまりイライラ気味だ。

「秋の雨しづかに午前をはりけり」(日野草城)

お昼過ぎには老人ホームにいる父から電話。介護スタッフに頼んで受話器を持たせてもらったのだろう。
「つらくてたまらないんだ。来てくれないか?」
どうしたの?と尋ねても、つらさの理由は返ってこないが、予想していた一言は今日も同じ。継母が電話に出ないので、父の部屋に来て私から電話してほしいとのお願いだ。外に出るのが面倒なときは携帯の電源を切っている継母。留守電さえ残せないもどかしさに、父は人恋しさを増してしまう。

「三日降れば世を距(へだ)つなり秋の雨」(水原秋櫻子)

猫も人も、雨が続くと気分が滅入るのは共通している。私のような言葉つむぎの仕事には致命的。明るい比喩は見つからずに、コーヒーは既に3杯目だ。スタンドの灯りをつけて、薄ら寒さに箪笥からひざ掛けを引っ張り出す。

「秋雨やともしびうつる膝枕」(一茶)

明日晴れたら、与六を抱っこしてお散歩に行き、喉ごしのいいプリンを持って父のお見舞いに行き、夜は立ち飲み屋にでも行って騒ごう。

イライラと人恋しさと薄ら寒さと。全てひっくるめて、やり場のない心を抱きしめる秋雨の夕方である。

コメント

  1. marie より:

    雨はいつの季節であれ憂鬱なものですよね。
    雨の日の休日に出掛けるとなると決まって屋内駐車場付きのデパートに足を運びます。
    で、先日なんですがそのデパートの本屋さんに息子と行き欲しい本があったので会計を済ませ、歩き出したら、かつて付き合っていた男性が歩いて来ました。
    私は思わず避けて、息子の腕を組みそそくさと駐車場に急ぎました。
    なんか胸の鼓動が収まらずドキドキしてしまいました。
    息子は私の異変には気付いてはいないようでした。

    誰でも元恋人に遭遇した時はビックリするものかと思いますが、再会した時の感情は別れ方で違いますよね。

  2. 的は逗子の素浪人 より:

    秋雨に心を一人抱きしめる。
    やっぱりひと騒ぎしますか!!

  3. yuris22 より:

    marie様

    それはドキドキしましたよね。元恋人は面と向かって会わなくても、今はどうなっているのか気になります。柱の陰から容貌を確かめるぐらいがちょうどいいかも。

  4. yuris22 より:

    的は逗子の素浪人様

    寂しさは比重が大きくて、心の底に沈んだままになりがちです。ポジティブな感情と一緒にかき混ぜて、拡散するのが一番かもしれません。というわけで、親しい仲間と飲んで騒いで元気になるぞー!

// この部分にあったコメント表示部分を削除しました
タイトルとURLをコピーしました