素晴らしい能力を持っている人

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バスの二人掛け座席で、60代後半と思われる女性たちがお喋りをしていた。一人はパートにに向かう途中、もう一人は専業主婦らしい。

「お仕事ができて羨ましいわ。私なんか、何の能力もなくて・・」
「そんなことないわ。お子さんたちを立派に育てたじゃない」
「いえいえ、寝て食べてテレビを見て、家でゴロゴロしてただけよ」
「でもちゃんとお年寄りのお世話をして看取ったじゃない」

 

慰められる側のご婦人は真っ白な髪を帽子に隠し、か細い声で印象が薄い。市役所に出向く用事が、久しぶりの大イベントといった様子だった。

 

前の座席で会話を盗み聴きしていた私は、見ず知らずの女性の人生に、なんだか目頭が熱くなってくる。
子育てをして、親を介護して、わがままな夫の言いなりになって、気が付けば高齢者の仲間入り。自分には能力がないから、この人生しか選べなかったのだと諦めて、冒険することもない残された日々を淡々と過ごしていく。

 

しかしそんな彼女を慰めるもう一人のご婦人の言葉に嘘はなかったと思う。人の世話をして送り出すことが、どんなに長い時を費やし、忍耐が必要かを知っている。

「本当に素晴らしい能力をお持ちです。どうか自分を卑下なさらず、これからも周りに愛を贈り続けてくださいね」
後ろは振り向けなかったけれど、私も心の中でエールを贈った。

 

彼女には間違いなく、人を幸せにする能力がある。だって温かい会話はバス中に伝わって、乗客たちを優しい気持ちにさせてくれたのだから。終点で降りていく人たちの眼差しが、
みんな「お疲れさま」を告げているようだった。

コメント

  1. クローバーリリー より:

    突然すみません。 
    マナー違反をした人を注意したら逆に自由(モラル)の侵害だと言われました
    みんなの迷惑ですと言っても関係ないでしょと言われて,腹がたったのに言い負かされてしまいました

    ルールとモラルの違いを正しく諭すにはなんと語ればいいのでしょうか?
    しなくてもしてもいいことだから放っておけばいいのでしょうか?
    勝手な押し付けなのでしょうか?

    悩んでます
    もし良かったらアドバイスください。お願いします。

  2. yuris22 より:

    クローバーリリー様

    辛かったでしょうね。心情お察しします。
    モラルとは一般に道徳や倫理のことを言うのですが、その方は個人の自由だと取られたのでしょうか。まあ、オレ様が倫理だ!と豪語するなら、確かに自由=モラルでしょう。

    文面だけは状況が呑み込めず、通り一遍のことしかお返事できないのをご容赦ください。たぶんその方はバツが悪かったのだと思いますよ。怒りとは、プライドの誇示でもあります。公衆の面前で自分を見下されたという恥ずかしさが、クローバーリリーさんに対して跳ね返ったのでしょう。

    見て見ぬふりをしろとは言いません。その人が犯罪の範疇に入る行為をするようであれば、きっと周りの方々も止めに入ります。ただし真っ先に「諭す」とか「注意する」という意識は、上から目線かなあ・・と。じゃあどうすればいいのよ!と言われれば、私も行き当たりばったりの対応しか出来ないと思います。年の功として、控え目に、小声で、きつくない言葉を選ぶかもしれませんけどね。

    人間はアダムとイブの罪から始まって、恥ずかしい生き物です。回答のない不完全な生き物です。注意されてキレたその方も、きっと今頃は布団の中で苦しんで、「キエーッ!」とか叫んでますよ。笑ってあげましょう。

  3. marie より:

    いいですね。
    こういう会話は傍から聞いていても心地良いものですね。
    人間はどうしたって歳を取るもの。
    イヤでもオバサンになっていくもの・・・。
    公共の場では家庭の愚痴(夫の不満や姑の愚痴)よりもお互いに慰めたり、褒める会話が何よりですね。

    誰でも自分に自信がなくなって「私なんか・・・」「俺なんか・・・」となることがあるでしょう。
    しかし、それを「そんな事はないよ」と温かい言葉を言ってもらうだけで目頭が熱くなりますね。

    実を言うと私は子供の頃から要領が悪く、きちんとしていても誤解されることが多いです。
    そんな私でも理解してくれる友人がいて幸せです。

  4. 的は逗子の素浪人 より:

    人間って「生きている」事だけで才能発揮ですね。

  5. yuris22 より:

    marie様

    自分では欠点だと思うことも、他人から見れば長所ってこともあります。お世辞ではなくて、本当に褒め方が上手な人は尊敬します。持って生まれた人柄なんでしょうかね。

  6. yuris22 より:

    的は逗子の素浪人様

    何の取り柄もない人間なんて、いないと思うのですよ。どこかで誰かの役に立ってると思って生きていたいものです。

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