10月が近くなり涼しくなると、湘南の砂浜は人影がまばら。しかし風を受けて走るヨットにとっては、秋は風向きが定まり、焼けつく日照りもなくてベストシーズンだ。
実はある思い出があってヨットには何年も乗らずにいたが、この間の日曜日、ついに封印を解いた。葉山マリーナにヨットを置くオーナーから何度もお誘いを頂き、そのたびに「フェンダー結びさえ忘れてしまったんですから、ご迷惑をおかけしますよ」と逃げ続けていたのに、何故か急に海の真ん中に行ってみたくなった。
気持ちを動かしたのは、昔恋人に買ってもらった紺色のデッキシューズ。陸でしか履いていないまま擦り減ってしまうのが切なくて、一度甲板で本領を発揮させてやりたいと思ったからだ。
乗せてもらったのは林賢之助さん設計のJACKY(ジャッキー)。日本一周もしたという40フィートの豪華ヨットで、これなら太平洋も余裕で渡れそうな設備万全の船である。今年74歳のオーナーをはじめ、クルーの皆さんは充分に(?)お歳を召された方々であるが、きびきびとした動きはこれまで会ったヨットマンの中で最高ランクに入ると思った。
江ノ島の左側には富士山のシルエット。空は曇っているのに箱根の山々まで見えるのは、秋ならではの澄んだ空気のおかげである。
台風15号の爪痕でポンツーンが使えないので、相模湾をセーリングした後は、森戸海岸沖にアンカーを下ろしてミニ宴会。キッチン、冷蔵庫、電子レンジ等々が完備されたキャビンから次々に手作りの肴が登場し、冷えた白ワインと葉山ボンジュールのパンも甲板の上では一際おいしい。マリンスポーツや釣りに集まった人たちを海上から眺めるのも久しぶりである。
午後3時を回った頃には仲間の船が誘いに来て、サンセットクルーズへと滑り出す。メインセールは畳んでしまったので、ジブセールのみで相模湾を走ったが、それでも他の船をどんどん引き離す帆走テクニックには脱帽である。私もコックピットで舵を握らせてもらい、ほんの徐々にだけど昔の勘が戻ってきた。
波を切る音と銀の海。夕暮れが近づいた空からは天使のはしご。雲の切れ間から光の筋が幾本も海に降り注いでいる。みんな無言になるひとときだ。
マリーナでクルーたちと別れた後、逗子の喫茶店でコーヒーを飲みながら、オーナーがポツリと呟いた。「僕も遊べるのはあと数年。引退したらヨットは若い人たちに譲ろうと思ってるんだよ」
誰もが欲しがる素晴らしい船を売るのではなく、後を引き継いでくれる仲間に譲ろうというヨットマンの心意気がとても爽やかである。
次回は私にキッチンを任せて頂くことを約束して、新しい仲間がまた増えたことに感謝する再デビューの海であった。
コメント
はじめてきました(^^ゞ
湘南最高!様
いらっしゃいませ。
永遠の湘南に乾杯!