迷子の記憶と冬の入口

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窓の外から「夕焼け小焼け」のチャイムが聞こえると、ノートPCの蓋を閉じてウォーキングタイム。毎日17時から開始していたのを、1時間早めなくちゃと思っている。昼間がどんどん短くなって、今日の日没は16時55分。歩いている間に真っ暗になり、デジカメを向ける対象もなくなるからだ。

自他ともに認める方向音痴の私は、家の近所でさえ道に迷う。車で走る大きい道は覚えているのに、歩いて住宅街の路地に入り込むと、海岸に向かっているつもりが山に向かっていたり、袋小路から他所の庭に迷い込んだりして途方に暮れる。

今日は亀ヶ岡団地の坂道を張り切って登って行ったまでは良かったが、日暮れと共に案の定、向かうべき方角が分からなくなってしまった。行き止まりにはススキの空き地。夕焼けに染まった崖の向こう側に私のマンションが見え、ポツポツと電気が灯りはじめている。しかし崖の下には道はなく、どこから下っていいものやら迷って住宅街をぐるぐると回った。

亀ヶ岡団地から
日暮れに道をなくす心細さは幼児の頃のトラウマで、父の赴任先の徳島県で迷子になった時を思い起こさせる。1人で大きな森の中に迷い込んで、家に戻る道が見つからず、泣きべそをかいて歩いた。空には星が出て、ようやくどこかの公園に辿り着きブランコに座って泣き続けていたら、制服を着た知らないお姉さんが「どうしたの?」と声をかけてくれた。「うちに帰りたい」と言いたくても、ヒックヒックとしゃくりあげるばかりで声にならない。

やがて泣きやんだ時には暖かい我が家、母が作るカレーの匂い。お姉さんがどうやって送ってくれたのか記憶は全くないのだが、きっと大きな森は神社の木立程度で、知らない公園は昼間よく遊んでいた公園だったに違いない。見慣れた場所が夜になると全く表情を変えてしまうのを、初めて体験した恐怖の思い出である。

さすがにこの歳になれば迷って泣き出すことはないけれど、帰れない切なさは昔の記憶を呼び覚ます。あと一カ月もすれば冬の入り口。晩秋の風が背中にうすら寒くて、心配なときにいつも起こる現象、お腹がキュルルと痛くなる。

ようやく家に帰り着いてドアを開けたら、玄関マットの上で待っていた与六が尻尾を擦りつけてきた。暗闇で心細いのは猫も同じなのかもしれない。電気を煌々とつけて、抱き上げた与六のぬくもりに頬ずりして、さあて今夜は懐かしい味のカレーでも作るとしようかな。

コメント

  1. 的は逗子の素浪人 より:

    不思議に「迷子」になった事は無いけど、「寂しさ」を感じる季節となりましたね。僕も暗いうちに家を出て、暗くなってから帰るという生活です。車でいっぱいになる道だけど、車ごと、人ごとにさまざまな「思い」があるように感じます。

  2. yuris22 より:

    的は逗子の素浪人様

    秋はどうして人恋しくなるのでしょうね。しばらく休んでいた飲みニケーションが復活しそうです。

  3. その より:

    こんにちは、そのです。
    迷子になった心細さを思い出して泣けてきちゃいました。

    秋の夕暮れの早さは、大人になった今も温かいところに早く帰れ帰れと急かすようです。
    ま、わたしは仕事開始だけどね。はは。

    温もりと灯り。与六君のふわふわ加減が恋しく伝わってきます。みな、恋しい繋がりで秋と重なっているよう。
    どうぞ、深まる秋にお風邪などひかれませんように。

  4. marie より:

    迷子の記憶ではありませんが、何かのきっかけで沢山昔を思い出すことが増えたように感じる。
    営業の仕事を始めて早くも5ヶ月。
    辛いと以前長く勤めた会社を思い出して帰りたくなる。「なんて自分は幸せだったんだろう」と。
    幸いにも私は再就職には恵まれている。
    けれども、今までにないくらいの苦労が付いてまわる。
    辞めたいと思いつつも、お客さんと人間関係が出来てくると、辞めれないと思う。「どうも」「ありがとう」この言葉は思ってる以上に力を与えてくれるものだっと思う

  5. yuris22 より:

    その様

    昼夜の気温の差が大きくなりましたね。
    もう11月で、「暮れ」という言葉が身近になります。やり残したことだらけだと後悔するのは毎年のこと。あと2か月を大切に、充実して過ごしたいと思っています。

  6. yuris22 より:

    marie様

    あの時どうして○○しなかったんだろうと、一瞬の判断を悔やむ時が多々あります。神様がもし昔に戻してくれるなら、何歳に戻りたいかなんて考えることもあります。
    過ぎた時は帰らないと知っていても、心は昔を旅したがるものなんですね。

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