あなたのために編む贈り物

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12月に入るまで暖房は入れないつもりでいたが、さすがに午後からの冷たい雨に負けてストーブを点けた。日暮れを待たずに厚いカーテンを閉めて、さあ何をしよう。

出かける用事のない冬の初め。独りで留守番する家。
少女だった頃、こんな日は宿題を放り出して、一心不乱に編み物をしたことを思い出す。暖かな毛糸玉を頬に当てて、ニット雑誌のページを捲りながら自分の力量に合った作品を探した。

大物に挑戦しようとセーターを編み始めたらもう大変。空が白々と明け始めるまで編み針を動かし、学校から帰ったらまた続きで、寝不足を3日ほど繰り返して作品を完成させたものだ。組み立て始めたら止まらない、少年のプラモデル製作と同じである。

やがてボーイフレンドが出来れば、クリスマスプレゼントも編み物。
気付かれないように肩幅と袖丈を測り、太い毛糸でアランニットを編み上げる。ラッピングのリボンを解く彼の目がどう反応するか、期待を膨らませてまた徹夜する。

それほど続いた趣味を止めたのは、結婚生活に終止符を打った時だった。
独りで片付ける洋服ダンスの引出しに、彼に編んであげたセーターが残っている。雪の結晶の模様を編みこんだ自信作は、彼も休日のたびに袖を通すほどのお気に入りだったのに。

幾冬かの思い出を廃棄用の段ボールに投げ込んで、ガムテープを貼って封印。
それ以来ニットは買うものとなり、編み針を持つことは一度もなくなった。

そして現在。カーテンの隙間を見れば冬日は落ち、私の手元に毛糸玉はない。その代わりに心で言葉を編み、歌詞を紡ぐことが仕事になった。

あと1ヵ月後にやってくるクリスマス、大切な人へのプレゼントは言葉で編み始めている。このブログ上から、たった1人に向けた全国メディアのラブソングを予告。
セーターよりも暖かいと言ってもらえたらどんなに幸せだろう。

コメント

  1. yokon より:

    目黒からUターンしてきた葉書きが行き先を見失って…ここでやっと会えました。すてきな言葉を紡ぎ続けているyurisさん。その歌を小学校の子どもたちと歌いそのしなやかな文章に人生を重ね合わせている私です。

    クリスマスのラブソング たのしみにしています。

  2. yuris22 より:

    yokon様

    ありがとうございます。お葉書を下さったのですね。

    目黒の郵便物が宛先不明になるらしく、このブログで私を見つけてコンタクトを取って下さった方が沢山いらっしゃいます。筆の力は大きいですね。

    音楽の教科書に載っている「赤いやねの家」が私のベストかと思っていました。でも様々な苦難を乗り越えた今は、もっと優しく哀しく暖かい歌を書けると思っています。

    yokonさんが教えていらっしゃる子供達がいつか親になった時でも、大好きだった歌ナンバー1になれる歌詞を書かなくちゃ。応援してくださいね!

    少々歳が行きながらも、やっと王子様に巡り合ったシンデレラより。

  3. 風小僧 より:

    読ませて頂きながら、yurisさんの表情まで浮かんできました。当然ながら、文章に書ききれない人生を歩いてこられたんでしょうね。
    手編みのセータ-を編みこむほどに相手への思いも募っていくのでしょうが、それを・・・・。

    今後も愛読書として。

  4. yuris22 より:

    風小僧様

    恥ずかしながら、小説のネタには困らないエピソード満載の人生です。空から見守ってくれているご先祖様たちも、こんな子孫がどうして生まれたかと呆れていることでしょう。

    星の落とし子の幸運は、どんな苦境が襲おうと愛してくれる人がいることです。誰にも妨害できない絆がここにあります。

    クリスマスにはどんな歌詞をアップできるだろう?
    愛の言葉をいっぱい盛り込みます。もしご覧頂けたなら盗んでいただいて構いません。あなたの大切な方に気に入ったワンフレーズをプレゼントしてあげて下さいね。

  5. 風小僧 より:

    おはようございます。
    年末に近づき、お忙しい毎日と思います。
    クリスマスの日にラブソングを記載するようですね。
    楽しみに読ませて頂きます。
    私の大切な人?
    ラブにもいろいろありますが、特定の方をいませんので塾生でしょうか。
    母にはthanksになりますね。
    いづれにしても、yurisさんがたった1人に贈るということですので楽しみですね。
    残り数日で12月です。よい1年の締めくくりができるように願っています。

  6. marie より:

    編み物、料理、スポーツ、写真、釣り、何でもいいから、人に自慢出来たり、負けないものを持っている事はいいですよね(^-^)
    私は、何もないんですよ。
    以前にお話したかどうか、わからないけれど、これでも結婚していて、小学二年生の息子が居ます。
    正直言って、料理が苦手です。
    簡単なものしか作れません。周囲の同じ子供を持つ、お母さん方のお話を聞いていると、みなさん本当にレパートリーが多くて関心します。
    平日だと、野菜だけ茹で、惣菜で済ます事も・・・。
    私は、産まれてすぐに両親が離婚し、祖父母(現在は亡くなって居ません)に育てられました。父親は仕事一筋でした。
    やがて、大人になり、夫にお婿さんに来て頂き結婚しました。料理も教えてもらった事はなかったんですよ。
    甘えて育ったんですね。
    ・・って私は何を話しているんでしょう(笑)スミマセン(笑)
    けれども、今更ながら、祖父母にはとても感謝しています。

  7. yuris22 より:

    marie様

    私も祖父母にはとても感謝してます。marieさんと同じような境遇で、育ての親ですから・・。

    料理は全て自己流ですが、食べ歩くことで味を覚えました。キッチンが見えるカウンターに座って、調理法を教えてもらうんです。家に帰ってチャレンジしているうちに、いつか自分の味になります。

    料理は自分への、そして愛する人への愛情。
    marieさんの息子さんがいつか「お母さんの味が好き」と言ってくれるようになるといいですね。

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