桃から生まれた桃太郎。おじいさん、おばあさんの手塩にかけて育てられ、どんな大人になったのだろう?
映画監督でドキュメンタリー作家である森達也氏の『王様は裸だと言った子供はその後どうなったか』を読んだ。この第3話に風刺をきかせた『桃太郎』が登場する。
桃太郎は優秀な成績で大学を卒業し、正義を愛する崇高なジャーナリストになる。テレビのゲストコメンテーターとしても人気者だ。
周りの期待を一身に集め、ここで一発キメたい桃太郎は、鬼が島の取材に行き特番を撮ることにした。
音声やサブカメラなど、取材クルーはジャーナリストの卵である犬と、サルと、キジだ。
彼らは船をチャーターして意気揚々と踏み出したが、問題が発生。鬼たちは離れ小島に引っ込んで暮らしているものの、何も危害は加えてこない。どうして退治する必要があるのか?
正義漢・桃太郎の考えとしては、鬼とは悪の化身である。おとなしいふりをして、ある日突然強奪にやってくるかもしれない。テロを画策しているかもしれない。悪い芽は未然に摘んでおくべきなのだと。
結果、海辺で漁をする鬼の子供たちを追いかけ回し、子を守ろうとする鬼の親たちを一網打尽に検挙して、桃太郎のレポートは全国ネットで流れてヒーローとなる。
ジャーナリストは時として主観にとらわれる。報道することにより悪へ懲罰を与えるのだと思い込む。
マスコミの過剰報道に国民たちが巻き込まれ、正義という名のもとに誰かを血祭りにあげなくては気がすまなくなる。刺客を送り、逮捕の文字に沸きあがる。
でもみんな、心の片隅で思っているんじゃないだろうか、調子に乗りすぎたと。本当は犯ってないんじゃないかと。
人間個々は冷静な良識を持っていても、強烈な個性に扇動されれば自分を忘れる。
報らせて悪を絶つ正義のヒーロー。その実の姿は邪心を隠し持った催眠術師かもしれないのだ。
あなたの周りにも「桃太郎」はいませんか?
コメント
もしかしたら、いやたぶん、
今の僕が、鬼が島の鬼かもしれませんね。
映画『それでもボクはやってない』と『松本サリン事件』を思い出します。
そう言えば、阪神淡路大震災では「お惚けマスコミ」が闊歩しましたね。
tsune2様
厚顔無恥な桃太郎よりは、心の痛みを知ってる鬼の方が、はるかに人間らしいかと思います。
詩人たそがれ様
鳥インフルエンザのマスコミの過剰報道で、自殺した夫婦もいましたね。
野次馬根性も度を越せば、刃になります。