光源氏と紫の上が見た冬の月

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暦の上で明日は、寒さのピークとなる大寒だ。今週はじめには首都圏でも雪が積もり、ますます冷え込みが厳しくなってきた。

清少納言は『枕草子』で「冬はつとめて」(早朝)と言っているが、そんな時間にベッドから出られない私は、紫式部が『源氏物語』で描写した冬の月が好きだ。「第二十帖 朝顔」の第三章・第二段「夜の庭の雪まろばし」で、朝顔の君に嫉妬する紫の上に、光源氏が雪景色を見ながら語った一節を載せよう。

「人の心を移すめる花紅葉の盛りよりも、冬の夜の澄める月に、雪の光りあひたる空こそ、あやしう、色なきものの、身にしみて、この世のほかのことまで思ひ流され、おもしろさもあはれさも、残らぬ折なれ。すさまじき例に言ひ置きけむ人の心浅さよ」

(人の心を惹きつけて移ろわせる桜や紅葉の盛りよりも、冬の夜の澄んだ月に、雪の光が映えた空こそ私は好きだ。幽玄で、色のない風景が身に染みて、現世を離れた世界にまで想いが及んで、おもしろさも哀しさもここに尽きる。冬の夜を興ざめと言う人の心は浅いものよ。)

紫の上は幼い頃から光源氏に育てられて最愛の妻となり、才色兼備の代表格ともいえる理想の女性であった。しかし身分のせいで正妻にはなれず、子宝にも恵まれず、我が身のたよりなさに悩み苦しんだという。その孤独さに気付かなかった光源氏とは擦れ違いが多くなり、やがて37歳で重病にかかって、出家を望みながらも叶わずにこの世を去った。

御簾を巻いて、恋い焦がれる源氏の君と見上げた冬空。高々と浮かんだ白い月と、紫の上の心情には「凄愴(せいそう)」という表現を当てはめたい。

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中秋の名月やスーパームーンよりも、なぜか今は心惹かれる寒月。ベランダに出てスマートフォンで撮る冬の月は遠く小さくなろうと、家族団らんの灯りを画面の下に入れたくなる。冷たくてあたたかい風景。かじかんだ指をポケットに入れて白い息を吐き、どんな祈りを捧げようかと、話しかける言葉を探すのが日課になった。

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