私がヨットに乗らない理由

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秋晴れが続いた三連休。猫がいるので旅行には行かず、昼間は海を見て過ごしていた。風がサラリとTシャツの袖口をすり抜けて、夕方になるとカーディガンが恋しいこの季節が一番好きだ。SPF40の日焼け止めからも解放されて、太陽は外敵から優しい友人になる。

数年前までは休みといえばヨットに乗っていたけれど、今は横浜ベイサイドマリーナもボードウォークから見下ろすだけ。天国の海原をセイリングしている彼に思いを馳せたい時は、東京からの帰りに寄り道しては、ポンツーンに停泊したクルーザーたちを見おろす。紺白ストライプのTシャツを着た彼が、今にもキャビンから顔を出してきそうで、ついつい思い出の船を捜してしまう。

横浜ベイサイドマリーナ

そんなクルージング・ウィドウを気にかけてくれるヨット仲間たちから、「大島で旨い魚を食べようよ」とか「伊豆のツアーに参加しなよ」とか、楽しいお誘いの電話がくる。油壺のハーバーまで行く途中に、家まで迎えにきてくれるとの申し出はありがたいけれど、「今回はちょっと仕事が・・」と断り続けているうちに、今年も夏が終わってしまった。

逗子に夕暮れが迫る時刻に1人。望遠レンズを持って、防波堤まで写真を撮りに行く。うねりのない銀色の海。相模湾を葉山方面に向っていく白いヨットには、デッキビームに立っている人影が見える。泳ぎが下手なくせにライフジャケットも着ず、コクピットの一員だったあの日の私みたいだ。口下手だからこそ、名スキッパーだった恋人に命を預けることが、最大の愛の表現だった。「私はあなたの一生のクルーなのよ」と。

葉山沖のヨット

太陽と潮に焼けたデッキシューズを捨てられないまま、封印してしまったヨット遊び。逗子の飲み仲間たちと釣り船に乗ることはあっても、ヨットにはもう乗ることはないだろう。彼が大好きだったスターダスト・レビューの『Stay My Blue ~君が恋しくて~』。あの声で聴こえてくる歌詞の一節が、海を見て元気を出すためのおまじないだ。

“君の瞳の奥へと
愛をさがす船をだそう
明日から ねえ君がこぼす吐息は
すべて僕の風になれ

君がまぶしすぎるから
ぼくはたまらないんだよ
明日から ねえ君が流す涙は
ひとつひとつ輝いて
すべて僕の海になれ”

ヨット遊び

コメント

  1. 亀吉 より:

    泣かせないでよ。
    彼は今でも友達さ。気がつくと声に出して呼びかけてるときがあるよ。

  2. marie より:

    甘酸っぱい夏の思い出ってところでしょうか… 私は二十歳の頃に付き合ってた彼との思い出から離れれずにいた頃がありました。その場所を通る度に悲しく思い出してました。

  3. yuris22 より:

    亀吉様

    今朝、家を出るのが遅くなって慌てて車に乗ろうとしたら、黒いアゲハ蝶が私の周りをクルクルと飛びました。Kちゃんの「気をつけてね」ってメッセージだったんでしょう。私も思わず呼びかけてしまった。

  4. yuris22 より:

    marie様

    仕事を終えてmarieさんに返信しようと思ったとたん、「飲みに行くぞ!」と友人たちから電話がありました。そのとき彼らはタクシーに乗り込んで、既に我が家の下。感傷に浸るどころか、みんなで「完笑」の時間をくれました。このブログを読んでたのかな。私は本当に幸せ者です。

  5. muha より:

    おひさしぶりで~す。実に「正解」。日本近海、漂流物いっぱい!それは何でしょう…?ポンツーンって哀愁を漂わせていますね!何か書けそぉ~云々‥

  6. yuris22 より:

    muha様

    先日の台風で、逗子の漁港には大量のゴミが打ち上げられたそうです。トラック何台もで運んで捨てた漂流物の正体は・・、人間のエゴの残骸でしょうか。

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