どんな海辺でもマンションが建ち並べば、景観は変わる。
ユーミンの歌に出てくる「山手のドルフィン」からは、ソーダ水の中を通る貨物船も、三浦岬も見えなくなってしまった。
その一方で、物心ついた頃から何十年も変わっていない景色もある。
江の島にある茶屋「富士見亭」のテラス席から眺める相模湾だ。
弁天橋から遊覧船に乗って岩屋に着くと、心臓破りの階段を登って2軒目。見た目こそパッとしない磯料理屋なのだが、私は決まってここにしか行かない。
創業は明治時代という昔懐かしい店構えが腰を落ち着かせてくれるし、いつも空いているのが魅力でもある。
テラス席に陣取って、オーダーするのは生ビールとイカの丸焼き。
180度に広がる海の向こうには、天気が良ければ伊豆半島や富士山も見渡せる。
聞こえてくるのはトンビのピーヒョロロという鳴き声と、時おり空を横切っていく飛行機の爆音だけ。
言葉は必要なくなり、海を眺め空を眺めを繰り返しながら夕暮れまでの時間を過ごす。
やがて銀盤の上に一艘の白いヨットが現れる。
デジカメを構えシャッターを切る瞬間、ファインダーの中にトンビがグライダーの如く飛び込んできた。
これまで撮ってきた写真の中でも、たぶん究極の一枚。
メモリーカードと胸の中に、海を見ていた午後が永遠に残った。
コメント
いつもブログ拝見しています。「海を見ていた午後」のタイトルも素敵なエッセンスで綴られた文章も、懐かしい思い出が蘇えります・・・
富士見亭さんは、私も度々行くお店ですが
、展望席からの眺めは抜群ですよね!!
渡辺孝子様
いらっしゃいませ(^_^)
Blogとご主人のHP、さっそく拝見しました。
お仕事と生活と自然との付き合い方がとても素敵です。
湘南に暮らしてこそのメリハリのある毎日なのですね。
今回の富士見亭へは、奥津宮でお参りした後に行きました。
小学生~中学生にかけて江の島の近くに住んでいたので、歩けばそこかしこに
小さな自分が居るようです。
これから鮮やかになっていく木々の緑も楽しみです。