フラワーショップのレジ横に珍しいものを見つけた。小ぶりのひょうたんが1個398円で売られている。リビングに飾って涼しさを演出しようと思い購入したが、小ぶりの籠に盛ってまもなく、与六のおもちゃになった。
フンフンと鼻をくっつけてフレーメン反応。全部床に落っことしてホッケー遊び。今は自分の前に並べてかじってみたり引っ掻いてみたりしながら、取られないように番をしている。幸いにも歯形がついていないので、そのうち飽きた頃に返して貰うことが出来そうだ。
鎌倉市七里ヶ浜にあった祖父母の家には、夏になるとテラス屋根に緑のひょうたんが幾つもぶら下がっていた。大きさからすると「千成ひょうたん」で、水筒にできるサイズではなかったが、眺めて楽しいグリーンカーテンだった。
秋になって葉が枯れると形の良い実を収穫して、種出し・水漬け・乾燥の処理。テレビで大相撲の秋場所を見ながら、祖父がせっせと磨いていたのを思い出す。とても根気のいる作業らしく、ひょうたんはツヤツヤと光るまでには程遠いまま、延々とテレビの脇に転がっていたと思う。
中学生のときだったろうか、志賀直哉の「清兵衛と瓢箪」を読んだ。ひょうたんが大好きな小学生の清兵衛は、毎日ひょうたんのことばかり考え続け、学校に持ち込んで修身の従業中にまで磨き続ける。それを知った清兵衛の父は怒って、家にあるひょうたんを全て割ってしまった。授業中に教員に取り上げられたひょうたんは小使いの手に渡り、骨董屋に渡り、豪家に渡って、最終的には60円(今の120万円)の値がついたという話である。
ちなみに清兵衛は今度は絵を描くことに夢中になり、また親に小言を言われる。彼がその後どうなったかは書かれていないが、好きこそものの上手なれで、きっと夢中になった何かで居場所を得ているだろう。
私の祖父はひょうたん磨きを完成させないまま、もう20年以上も前に天国に旅立ったが、先人の癖は家族に伝わるものだ。思えば私もコツコツと一人で物を作るのが大好きだった。セーターを編めば完成するまで徹夜を重ねて編み続け、文章を書けば飲食を忘れて朝を迎え、プログラミングを始めればバグが無くなりきちんと動くまでは止められず、父には「身体を壊すぞ!」と叱られ続けたものだ。
しかしそんな父も似たり寄ったり。確定申告の時期が来ると「鶴の恩返し」のごとく部屋にこもって計算をし続け、還付金をいかに多く取り戻すかに執念を燃やしていた。自分の申告だけでなく、周りの人たちの分も無償で何人も引き受けていたのを思うと、きっと清兵衛系の人物だったと思う。
私にも出来るか、ひょうたん磨き。チラチラとこちらを盗み見ている与六が、コロンと一個を私のほうに転がした。
コメント
与六殿、お勤めお疲れ様です。
拙者は先日、若者に混じってプログラム言語の講義を受け、年下の先生が出す演習に汗をかいて参りました。でも新しい事を学べる事に幸せを感じました。
まぁ、大体の予測がたちますね(笑)
猫にとっては人間の大事なものがおもちゃですから(笑)
的は逗子の素浪人様
プログラミング言語を覚えるのに年齢制限はありませんよ。私の友人でも80歳を超えて現役バリバリで仕事をしている人がいます。環境さえあれば、私も一生の趣味にしたいと思っています。
marie様
間違いなく新しいもの、隠してあるものには飛びつきますね(笑)
大事なものが仕舞ってある引き出しを開けた途端、いつの間にやら横に与六の頭があります。