災害予知でのルール違反

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8月12日の朝に巨大地震が起きるという噂がネット上で一気に広まり、わずか2週間足らずで消滅した。発信源は天使と会話できるという小学生が受け取ったビジョン。彼のお母さんが7月26日から始めたスピリチュアル系のブログでは、相模湾で発生したM7.9の地震で沿岸一帯を大津波が襲い、東京湾は火の海になり、アクララインは全壊、浸水してメトロは壊滅。スカイツリーがポキンと折れて川に落ち、新聞には”死者10万人以上の可能性”という見出し。恐怖がエスカレートしていく連載だったが、8月7日に「お詫び」というブログ閉鎖を予告する記事と共に、地震に関するビジョンが全て削除されていた。

大地震と大津波で多数の犠牲者が出る予知夢を、そもそも天使が子どもに伝えること自体あり得ないと思っていたし、日時まで指定して人々をパニックに陥れるのは納得がいかない。ブログランキングで上位に躍り出てコメント数が増えていくにつれ、なぜかチャネラーの息子は影が薄くなり、母親が教祖のように前面に出てくるのがますます怪しいと思った。

そういえば今回に限らず3.11のあと、子どもが5月の大地震を予知したといいう流言が幾つも出回った。「3月10日に『明日おっきな地震がくるよ』と言った子どもが、『5月6日にたーくさん人が死んじゃうよ』と言った」、「3月に『地球が引っくり返るよ』と言ってた園児が、『5月にまた地球がひっくり返って僕も先生も死んじゃうの』と言ってた」「3月の大地震を当てた子どもが、『5月、日本ダメになる。』と言った」等々が拡散され、カウントダウンする2chでは「祭り」状態になったが、結局何も起こらなかった。

最近読んだ『検証 東日本大震災の流言・デマ』(荻上チキ著・光文社新書)によると、大きな災害時には「カルトな人たち」が現れるという。抜粋すると「地震を予言するという自称超能力者、効きもしない薬や治療法を提案するニセ医者、そしてさまざまな陰謀論者たち。(中略)阪神・淡路大震災の際には、『オウム真理教の浅原彰晃が地震を予言していた』『実は地震はオウム真理教の地震兵器の仕業だった』という流言もありました。『自分こそは気づいている』と陰謀論を振りかざす人たちの姿は、なんだか実際の体力や人気度合いなのでは同級生に勝てないので、『俺、実は超能力使えるんだぜ』とホラを吹いて、設定だけでなんとか目立とうとしては玉砕する中学二年生の姿を見ているようです。」

さらに信頼性を得るために使われる手段が、インサイダー情報。コスモ石油のタンクが爆発して有害物質の雨が降るというデマがあったが、情報源が「コスモ石油で働いている友人」や「医師会からのFAX」「千葉県庁にいる親戚から」「知人の防災センターの方から」等々と、メディアでは報じられていないけれど自分だけが特別に知っている情報であると、説得力を増すための前置きが付いている。

そもそも予測と予知とは違う。気象図や地磁気や何かしらのデータに基づき、地震が起こりそうだと言うのは予測であるが、予知には根拠がない。その根拠を天使とか子供とか、嘘を言うはずないピュアな存在をインサイダーにして、地震の発生日時まで書いて不安を煽るのはルール違反じゃないかと思うのだ。百歩譲って万が一真実だったとしても、「スカイツリーがポキンと折れる」なんて地獄絵図を子供の口から語らせるべきではない。

日付が変わって、例のブログを見に行くと退会済みになっていた。しかしキャッシュは「WEB魚拓」として保存され、どんどん拡散されていく。8月12日早朝にはきっと騒ぎがピークに達するだろう。インターネットがデマ拡散ツールにならないためにも、ブログやツイッターで安易に広げていく前に、「ちょっと待てよ」の一呼吸をしてほしいと願っている。

コメント

  1. アンティK より:

    ご無沙汰しております。

    このお母さんは何をもってこのようなブログを書いたのでしょうね。
    本当にお母さんなのかも疑わしいですが。

    普段、冷静な方のブログで取り上げられていたので読みにいきました。
    この大震災と原発を経験した後は、このように冷静さを失うのだなと改めて確認いたしました。

    恐怖は生命体を存続させるための本能ですが、そこの部分をいたずらに刺激して何になるんでしょう。

  2. yuris22 より:

    アンティK様

    一秒先の未来は誰も確信できないのですから、12日に巨大地震は来るかもしれないし、来ないかもしれません。結果がどっちに転んでも、ブログを閉鎖しないで、結果を検証して欲しかったですね。波風を立てて直前で逃げちゃうのは、ご本人自らがチキンなんだと思います。後味の悪い騒動でした。

  3. marie より:

    私の知り合いが同じようなことを言ってました。
    ただ、一つ違うのは「10月11日にまた地震かテポドンかでもっと人が亡くなる」「10月28日はXデー」と言うものである。
    恐怖は感じるが、いたずらに国民の恐怖感をあおるのはどうかと思う。
    ただ、確実なのは「水」に関する自然災害が多いと言うこと。
    何もかも恵まれた人々への「地球環境を大切に」と言うメッセージが強くなってると思う。

  4. yuris22 より:

    marie様

    カタストロフィのビジョンで恐怖心を煽るくせに、どんな根拠で日時が絞られるのかを説明しているサイトは少ないですね。
    どんなに恐くても、理由が前もって分かっているなら対処の仕様があると思うのですが・・。
    豪雨も気象図から予測できるように、大地震も地震情報やHinetを毎日チェックしていると、滑っている危ない地域が見えてきます。ずっと揺れていないところに、いきなりドカーンとは来ませんからね。
    防災グッズを揃えるだけでなく、自然災害発生メカニズムの知識を深めることも災害対策だと思っています。

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