オフィシャルな場以外で、自分の呼ばれ方について面白い現象に気付いた。9割以上の人が苗字ではなくて、下の名前で呼ぶのである。1~2回しか面識のない人からも「ゆり子さん」「ゆりさん」と声をかけられると少々照れくさいけれど、これは私だけに限らず女性にはみんな当てはまることなのだろうか。
引っ込み思案で友だちが少なかった小学生時代は苗字で呼ばれ、ニックネームもなかった。中高時代は「織田チン」となり、大学時代はまた苗字に逆戻り。
家族や恋人しか呼ばなかった下の名前が定着したのは、5年前に恵比寿から逗子に引っ越してきてからだ。逗子のようなテリトリーが小さい街では、一度知り合った同士はまた会う確率が高く、個性を認めた親しみのある呼び方をするのが普通なのかもしれない。
人から認められて嬉しいのはステータスではなくてアイデンティティ。東京で社長をしていた私の父は、新潟の過疎地で二束三文の土地を農家から気前良く買いまくり、赤字を続けながら米作りをした。周りに名前を覚えてもらい、夜は農家の食卓に招かれて山菜料理と地酒を振舞われることが最高に嬉しかったという。
何人も愛人を抱えていても親友は1人もいないという欠落した部分を、都会の複雑さを解さない皺だらけのお百姓さんたちが埋めてくれたのかも。囲炉裏を囲んで地酒を酌み交わしながら、本当は事業じゃなくて農業がやりたかったんだと、子どもの頃からの夢を語りまくったそうだ。
ゆり子さんになって以来、私はエルメスのバッグを持たなくなった。この街には着飾って行く高級ホテルもないのだから、ステータスを誇示する鎧みたいなブランド品は無用の長物。太陽の下でシェイプした肉体と新鮮な野菜や魚を食べて艶やかになった肌をキープして、ライフスタイルに合った仕事をするのが人間らしくていいのだ。
いつの間にか晩秋になって、さすがにTシャツでは過ごせない季節。衣服と同じように人生にも衣替えがやってくる。独身である以上、老後という冬支度について厳しく計画を立てなきゃいけないけれど、この街が終の棲家になればいいなと思っている。
コメント
なにもない、なにもしらないころ、
ただ玄関で「***くん あぁ~~そぼ!」とよんで、
森や川に行った事が懐かしい。
はだかが、いちばん!
的は逗子の素浪人様
「***くん あぁ~~そぼ!」って、聞かなくなりましたね。
マンションが増えたせいでしょうか、それとも恥ずかしいから?
開けっぴろげだった時代が懐かしいです。
下の名前で呼んでもらえるのはうれしいですね。
特に三文字の名前を二文字でちゃん付けで。
女はいくつになってもそんな風に呼んでもらいたいものですよね。
marie様
二文字にちゃん付けは、おばあちゃんになっても嬉しいし、チャーミングだと思います。1人にひとつしかない親が付けてくれた名前なんですものね。