攻撃してくるニオイについて

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夕方の山手線。すいているドアを選んで乗り込むと乗客たちの様子がおかしい。みんな何かに耐えるように顔をしかめて沈黙しているのだ。その原因は優先席を独占したホームレス。身体を小刻みに震わせながらブツブツと文句を言い、垢まみれのドス黒い肌からは強烈な悪臭が立ちのぼっている。次の駅で降りるまでの3分間は息をするのも辛かったが、彼の近くの普通席にいる人たちは、よく移動せずに座っていられるものだと不思議でならなかった。

そして乗り換えた横須賀線の中でも悪臭の不意打ち。またホームレスかと周りを見渡すと、発生源は私の隣に座っている学生風の若者なのである。服装はジーンズにジャケット、イヤホンで音楽を聴きながらスマホをいじっている姿は普通なのに、腐ったような酸っぱい系のニオイを身体から撒き散らしている。何日お風呂に入っていないのやら、髪もベッタリと固まって、家族や友人に指摘されないのだろうか。

潔癖症だった私の父はニオイに敏感で、最低でも一日5回はシャワーを浴びていた。不快なニオイを嗅ぐとクシャミを連発して鼻をズルズル言わせていたのは嗅覚過敏だったのかもしれない。その症状は私にも少々遺伝したようで、絶対に受け付けないのがデパートの化粧品売り場のニオイだ。特に香水の匂いは敵対心を持つほどに許せないのである。

先日も馴染みの飲食店で白ワインを飲んでいたとき、鼻が曲がりそうなほど香水を振りかけた女性客に遭遇した。店内にいる全員が目を白黒して、窓もドアも全開。しかし本人からだけでなく、離れた場所でハンガーにかけたコートからも激しく匂って、お酒も食事も喉を通らない。もしかしてホームレスに勝るとも劣らない体臭を消すためなのだろうか、慣れて嗅覚が麻痺しているのだろうか、拳を使わずとも周りをノックアウトできる殺人的なニオイであった。

人は長年にわたって馴染んだ自分のニオイには気づかないという。口臭が酷かった昔の彼に「歯医者さんに行ってる?」とソフトに聞いたらムッとされ、しばらく音信不通になったことがあった。ニオイ問題はデリケートであるがゆえ、プライドを傷つけないように教えてあげるのは非常に難しい。それと同時に自分は大丈夫なのかも気になるところ。猫は人間のニオイに敏感というが、与六が顔を寄せてフガフガ嗅ぎに来たときには要注意と思うことにしよう。

コメント

  1. 的は逗子の素浪人 より:

    自分の臭いは気になりますよね。歯医者には言ってますが。
    昔、スペインの地方空港の待合に入った瞬間、強烈な「柑橘系香水」に襲われました。発生源は地元らしい派手なおばちゃん。こうゆうものかと関心しながら時間を過ごしました。
    それ以来、「柑橘系香水」の香りで外国に来た事を感じるようになってしましいました(*_*;
    香りや臭いは結構直接的に記憶に結びつく様ですね。食習慣の香りも同じでしょうね。

  2. yuris22 より:

    的は逗子の素浪人様

    香りの記憶。大学生のころ初めて買った香水がジャンパトゥの「アムールドパトゥ」でした。適量が分からず付け過ぎて、吐くほど気分が悪くなり、それ以来フラワーノート系の香りは一切受け付けなくなりました。ちょっと嗅ぐだけでもゲッ。パブロフの犬みたいです。

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