昨晩の恐怖体験が今も脳裏に焼き付いている。内容を語る前に、それまでの経過を書いておこう。
呑兵衛の私が今年初めて節酒にトライした。外飲みも晩酌もやめて、連休中はアルコールを断って過ごしたのだ。「新久里浜式アルコール依存症スクリーニングテスト_女性版」では、8つの設問のうち4つが該当して「アルコール依存症の疑いが高い」という判定が出たのに、難なくお茶だけで過ごせて、「寝る前に一杯だけ」の誘惑さえ湧いてこなかったのは意外である。
そして昨日は都内で会合の後、久しぶりに赤ワイン。以前ならガブガブと飲んでいたのが、酔わないうちは飲むのが苦しく、酒の肴も美味しく感じない。逗子に戻って馴染みの店に立ち寄ったけれど、おかわりしたい気分にはならなかった。さらに驚いたのはベッドに入ってからのこと。風邪を引いたわけじゃないのに悪寒と動悸がひどくて、これは急性アルコール中毒かと疑った。
布団の中で縮こまっていたら、いつの間にか与六が身体にぴったりと密着している。モフモフの冬毛が温かくて、悪寒は止まり眠りにつくことができた。しかし苦しかったのはそれからで、身も凍るようなホラーを体験したのである。
見覚えのない修験者が起こしにきて、「お前は〇〇〇を知っているか」と戒名のような名前を口にするのだ。彼の隣りには俯いて立っている幽霊らしき女性。「知りません」と答えると、修験者はさらに追求してくる。
「嘘をつくな。〇〇〇はお山で出会ったと言っている。地獄から救い出してあげるとそのとき約束しただろう」
「お山には入ったことはありますが、神秘的なことに興味があって行っただけです。その方は知りません」
すると修験者は消え、俯いていた女性が顔を上げて鬼の形相で迫ってくる。髪の先まで真っ赤にメラメラと燃え上がり、私の首を絞めようとしたその瞬間、猫であるはずの与六が怒鳴り声をあげた。
「近寄るな!この外道が!!」
鋭い爪を立てて飛びかかって格闘の末、ギャーッ!という叫びと共に女性は消えていき、私は気絶していた。
やがて明け方になり目を覚ますと、与六は隣りでスヤスヤ寝ている。「私を助けてくれたのね、ありがとう」と何度も頭を撫でたら、嬉しそうに目を細めて鼻を擦りつけてくる。
ふと見れば寝室の窓が全開。このせいで昨夜は寒かったんだと気づき、窓を閉めて再びベッドに戻ろうとしたときに電話が鳴った。
「はい?」
「・・・」
「どちら様ですか?」
「私です・・・」
「はい?」
「私を地獄から救い出してくれるんでしょう」
後ろを振り向き、恐る恐る見た先には・・・。
次に気が付いたときには朝8時過ぎ。また夢だったんだと安堵しつつも、全く睡眠が足りずに頭がボーっとしたままである。あんな恐怖を味わったのは初めてだけど、アルコール離脱症状の一種だろうか。さもなければ飲み過ぎの飼い主を心配して、猫からのお仕置きだったのかもしれない。やっぱりお酒は止めておこうと心に決め、そば茶で身体を温めている雨の午後である。
コメント