爽やかな5月と、太陽ギラギラの7月に挟まれて、6月は中途半端な気候です。でも歳時記を開いて梅雨時の季語たちを知ったことで、視・聴・嗅・味・触の五感を楽しむようになりました。言葉を紡ぐ大先輩の残した句を2つ。第六感まで含んだ句もあります。
「六月を奇麗な風の吹くことよ」正岡子規
仲夏に吹く風には「黒南風(くろばえ)」と「荒南風(あらばえ)」、晩夏には「白南風(しろばえ)」があります。
黒南風:梅雨入りして空が重くなり、陰鬱な雨の降る天気が続くころに吹く南風。
荒南風:梅雨半ばの強い南風。
白南風:梅雨が明けて空が晴れわたり、盛夏の訪れとともに吹く南風。
正岡子規の句に出てくる6月は旧暦なので、実際の季節としては7月を詠んでいます。空が明るく輝いて「梅雨が明けた!」と思ったとき、鬱々と湿った空気を追い払うように吹いてきた白南風。その温感や肌触り、空気の香りを「奇麗」という言葉にしたのでしょう。ポジティブな気分になりますね。
「梅雨は降り梅雨は晴るるといふことを」後藤夜半
高浜虚子の門下生だった後藤夜半の句。終戦までは大阪の証券会社に勤めていたのを、戦後は俳句専業で生涯を送りました。
代表作は「瀧の上に水現れて落ちにけり」。とてもリアルに瀧を描写したことを、高浜虚子は「客観写生に徹した句」、山本健吉は「滝を高速度映画に写し取ったような句」と絶賛したそうです。
「梅雨は降り梅雨は晴るるといふことを」にも客観写生を感じますね。しかも五感だけでなく、第六感的な人間の生き方を隠喩しているのかも。人生に辛いことは長く続かず、やがて幸せなときが訪れると言っているように思えます。
「止まない雨はない」「明けない夜はない」と同様に、これもまたポジティブな気分になりませんか?
ことばの力は、ときに心理カウンセラー要らずの後押しをくれます。
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