深夜12時を回った山手線。ドアが開くたびに酔客が次々と乗り込んでくる。
はしゃぐ仲間たちと改札口で別れたとたん、気になるのは乗り継ぎの最終電車。誰しも顔から笑みが消えて、急ぎ足の帰途につく。
私はそんな乗客たちの表情を盗み見しながら、人生を想像することが好きだ。
例えば目の前で吊革にぶら下がっている赤い顔のお父さん。しみが付いたステンカラーのコートは、いつもの立ち飲み屋で焼き鳥を食べた名残だろうか。
家に帰って鍵を開けると家族は寝静まり、ぬるくなったお風呂でブルッと身体を震わせて、また明日も同じコートを着る。
例えばビーズを散りばめたマニキュアの指で、無心に携帯メールを打つ女子大生。目が潤んでいるのは彼と喧嘩別れしたのだろうか。
「アイツったら二股かけてたんだよ」「サイテー!別れて正解じゃん」
パジャマ姿で返信をくれるメル友に愚痴ったあと、溜め息をついて彼にメール。
「やっぱり好き!今から会える?」
居ても立ってもいられずに、次の駅で降りていく。
そして皆にまんべんなく朝がくる。
納豆の匂いをさせたお父さんは爪楊枝をくわえてバス停へ。
メイクが落ちた女子大生は彼のアパートで腕の中。
私はマンデリンのコーヒーカップと共にパソコンの前。
ハッと現実に戻ると「品川、品川」のアナウンス。電車のドアが開き、私たちはそれぞれの明日に向けてホームに足を下ろした。
コメント
動いてますね。時を刻んでますね。
という思いで読んでいました。
誰にでも朝が来る。
何をしていても朝が来る。
でも、みんな違う朝を迎えるのだろうと…。
風小僧様
人間80歳まで生きるとすれば、29,200回の朝を迎えます。
今までどの朝が記憶に残っているのだろう・・なんて考えてみると、あまり数が多くありません。単に忘れただけなのか、それとも単調すぎたのか、いずれにせよ生きている証ですね。
拙者も人間観察が好きでがんすが、
最近、電車のドア付近にいる7,8人の私を除いて、全員が携帯でなにやら???。あんまり面白くないですね。
でも昨日向かいに座った女性は、キッチン電化の冊子を読んでた。私はなぜこの人と出会わなかったのか…。
素浪人様
人間観察の中でも、居眠りしてる人を見るのが好きです。
だんだん頭が傾いて、隣の人の肩に触れるとビクン!反射的に体勢を立て直してもまた傾いてくる。それを跳ね返そうとする隣人の表情も面白い。
やがて諦めて、もたれ合って2人仲良く眠っているのを見ると「天使の縁結び」みたいに思います。
織田先生 こんばんは 房総帰り 快速乗って そのまま 逗子行って まま一杯 飲たくって 始発前ね… 終電って
muha様
逗子発・東京方面の終電は、11時35分発の品川行きです。
改札口手前から「待ってー!!」と叫んで走れば、発車時刻を少々待ってくれる駅員さんたち。始発駅ならではの特権です。