心を冬に閉じ込めた方へ

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毎晩ある方から届く定期便のようなメールを楽しみにしていた。森を散策して見つけた植物の話、造形の深い音楽や文学の話、過去の苦い思い出の話・・、どれも繊細で丁寧で温かな文章だった。ところが今月の初めにそのメールがプッツリと途絶え、毎日更新されていたブログも放置されている。

躁鬱病を患っているというその方の安否が気になり、「大丈夫ですか?」のメールを送ろうとしたが、どうしても書けない。何故なら最後に戴いたメールには「さようなら」の締めくくりと共に、躁鬱のアップダウンを繰り返すなら、ずっと欝のままでいたほうがいいと書かれていたからだ。私はその病には罹ったことがないし、知ったような励ましや心配は逆に棘となって刺さるかもしれない。

時々ここに書いている継母の欝病。「殺してやる」「死んでやる」が口癖で、「もう治った」の連絡を信じて会ってみれば、薬の副作用で顔がパンパンにむくんでいる。結局私はほんわりとその場にいて、彼女の底なし沼に沈んだ恨みつらみにじっと耳を傾けるしかない。意見しようものなら目の色が変わり、ヒステリックな叫びと涙が続くからだ。

俳優・船越英一郎の妹さんが首を吊って亡くなったという。重労働がたたりパニック障害と欝病を発症したものの、闘病生活を綴った著書で文学賞を取ったり講演会を開催していたというのに、目に見えない症状は悪化していた。「万が一にも自分から命を絶つような愚かな行為に走らないために」と自らのブログで綴りながら、その唯一の手段を選んでしまった。

欝病患者を抱える家族に向けた医師の手引きは山のようにある。でもどんなに経験をつんだ医師であろうと、患者になり代わることは出来ない。シャットアウトした心の扉をこじあける行為は、当人にとって迷惑なお節介であり耐え難い苦痛であるかもしれないのだ。

メールとブログが途絶えたその方のもとへ、いきなり訪ねていったり電話をしたりは私には出来ない。万が一、自ら命を絶っていたとしても仕方がない。いつかは私だって行かざるを得ない場所へ、先に旅立ってしまっただけだ。その場所に幸せが香る花々が咲き乱れていることを願う。

私に一つ出来ることは今日もこうして淡々と文章を綴り、海辺の町で相変わらずの毎日を送っている人間がいることを伝えるだけ。たまには笑い話でも書き、その方が唇の端をちょっとだけ緩ませてくれたらそれでいい。

心を冬に閉じ込めた方へ。誰がドンドンとドアを叩こうと、無理して外へ出てこなくていいのです。誰もみつけてくれない隠れんぼを待って続けて飽きて、曲げていた身体を思いきり伸ばしたくなったら出てきて下さいね。その時には桜が満開の春景色が貴方を待っているでしょう。冬の後には必ず春が来る国に住んでいることを、どうか忘れずにいてください。

コメント

  1. 青い夢 より:

    与六ママさんの優しい言葉に胸が熱くなりました。

    パニック障害・・・実は経験があります。本当に辛いものです。
    どこに行くにも、まず不安が襲ってきて不安で心の整理が付かなくなります。
    でも、その病気のお陰で家族はとっても良くしてくれます。

    猫さんたちの心音を、耳をくっ付け聞くと耳が熱くなります。
    そんなぬくもりを感じながら、生きていてくれてる事が本当に素晴らしいと思えます。

    与六ママさんの記事は、いつも本音で気取らず大好きです。
    これからも、人間臭い記事、ズッコケ記事(?)、辛口記事を楽しみにしています☆

  2. marie より:

    冬はつらいですね・・・。
    肉体的にも、精神的にも。
    私も少しばかりうつ病になった事があります。
    薬を飲むと気持ちは楽になります。
    けれども副作用はとてもつらいものでした。
    治った今でも、二月になると少しつらい気分が蘇ります。
    私の知り合いで長年患い、二月になると入院すると言います。
    私は、友人や家族(特に小三の息子)が何よりの支えになっていると感じています。
    それと、ユリさんのブログを読むことで癒されています。
    ユリさんのブログに出会えたことにとても感謝してますよ(^-^)

  3. しのぶ より:

    ゆりさんは本当の意味で優しい方ですね。

    生き方も洒落ていて、
    人への思いやりまで、どこか洒落ていますね。

  4. yuris22 より:

    青い夢さま

    「さあ、寝るよ」と声に出すと、どこからか与六が走ってきてベッドに飛び乗ります。私の顔を見下ろしながら、やがて眠ったのを見届けると何処だか自分の寝場所へ移動します。
    そして夜明け。鼻息が顔にかかるので目を覚ますと与六のドアップ顔。ここまで飼い主の睡眠時間をコントロールしてくれる生き物は初めてです。まるで私のマネージャー。

    可愛い与六を私に授けて下さってありがとう!青い夢さんにまたお会いできることを心待ちにしております。

  5. 猫太郎 より:

    最愛の猫太郎を亡くし心のよりどころが見つからない今、人間関係をシャットアウトしてしまう最低な私です。
    岩満羅門先生にいただいたお言葉さえ、自分で生かせない腹立たしさ。
    春は待てど暮らせど…。
    このブログを読ませていただいて少し楽になれました。
    心の扉を開けたくなるまでじっと猫が丸まる感じでいてようと思います!

  6. yuris22 より:

    しのぶ様

    ありがとうございます。優しいが転じて、みんなにお人好しと言われる私ですが、それでもいいんです。誰かがメリットをこうむるのなら、自分の存在意義がありますからね。1人で抱え込む幸せより、みんなで分け合う幸せが好きです。

  7. yuris22 より:

    猫太郎様

    羅門先生にお会いになったのですね。いいじゃないですか、御殿場まで遠出されただけでも。外に出てみたらまだ寒かったから、自分の住処に戻っただけのことです。
    人の心のサイクルは自然の四季とは異なります。無理して春を来させなくても、いつか必ず訪れますよ。主人公は自分です。自分がやりたいようにするのが一番だと思います。

  8. yuris22 より:

    marie様

    ありがとうございます。私もmarieさんの寄せてくださるコメントが、本音に溢れていて大好きです。お顔は見えずともお友達が増えていくのって、インターネットの進化のおかげでしょうか。

    今、私の周りは梅の花がそこかしこに咲いています。もうすぐmarieさんの住む東北ですね。二月は最も寒い時期ですが、梅の花に先導されて、先に楽しいことが待っていると思えば、乗り越える元気が湧いてきます。

  9. 猫太郎 より:

    あたたかいコメントありがとうございます。
    とても気持ちが楽になれました。何度も何度も読み返し、春を待ち生きたいと思います。

  10. yuris22 より:

    猫太郎様

    こちらこそありがとうございます。こんな私がお役に立てることに感謝です。春は必ず来ますよ!その時は待ちかねた分の利子がついて、今までで一番美しい春だと思います。いくら遅れても構いませんから、幸せになりましょうね。独りじゃないからね。

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