夕暮れが切ないお留守番

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「後ろ髪を引かれる」ということわざがある。心が後に残って、きっぱり思い切れないことを言うのだが、それは私がほぼ毎日体験していることだ。

シャワーを浴びた朝、まずはクローゼットから出した服をベッドの上に広げる。今日のコーディネートはこれと決めれば、時計を気にしつつ髪を乾かしてメイクアップ。そして室内着から外出着に着替えようとした時に、必ず困ったことが起きるのだ。与六が手足を伸ばして、服の上に寝そべっている。

邪魔する与六

「ダメ、これ着るんだから!」と服を引っ張れば、爪を立てて妨害。動くものに飛びつく猫の習性がますますヒートアップする。でも与六の本心はきっと「行かないで!」なんだろう。私はその気持ちが切ないほどに分ってしまう。

記憶は子供の頃にさかのぼる。父の会社で経理を手伝っていた母は、週に数回の出勤だった。出かける朝にはクールな職業人の顔になり、目覚めた部屋に化粧品の匂いが漂っている。しかも東京まで車で1時間の距離に住んでいたので、学校へ行く私よりも早く家を出て行く。

それでもひょっとしたら・・の期待をしていた放課後。ランドセルを投げ出して「ただいまー」と呼びかけると、母の「お帰り」はやっぱり聞こえない。台所からは、おばあちゃんが作ったカボチャの煮物の匂いがして、切ない切ない夕方だった。「今日は東京に泊まるから」の母の電話が来ないことをひたすら願った。

大人になった今の私の「ただいま」は淋しくない。ドアの鍵を開けると、小さな鈴の音が飛んでくる。玄関マットの上で、ニャンとお腹を広げて大歓迎。「ごめんねごめんね、待ってたね」。そんなふうに言って欲しかった母の面影が頭をかすめて、私は与六を抱きしめる。

ご主人様が帰ってくるのを待ちわびている与六は、どうしながら夕暮れを迎えるのだろう。太陽が東から西へ、やがて真っ暗になった部屋で、懐かしい匂いがするベッドに寝転んで目を閉じているのかな。

ありがとうね、世界一の宝物。朝になれば隣でジーッと見つめている瞳に、後ろ髪を引かれてしまう親馬鹿なママである。

うっとり与六

コメント

  1. marie より:

    ワォ!
    やっぱりにゃんこかわいいですね。

    実は先日我が家に新しい家族(日本猫2匹)が増えました。

    まだ子猫なのでチョーかわいいです。
    大きくなればもっと可愛くなりますよ。
    愛着が湧いて

  2. yuris22 より:

    marie様

    にゃんこが2匹も増えたんですね。羨ましいです。
    うちの与六も1匹では私にベッタリしすぎなので、仲間を増やしてやりたいのですが、嫉妬心が燃え盛る可能性も・・。女心そのまんまの生き物ですね。

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