茶の間に聞こえる家族愛

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リビングルームと言うよりも、小さな茶の間の記憶。そのころ私は小学校に上がる前だったと思う。夏の日曜日、一家団欒の夕食が終わって、テレビはプロ野球を映している。

我が家は全員が巨人ファンであったが、そもそも野球というスポーツが分からない幼児には退屈そのもの。カキーン!ワーッ!という音に、どうして家族が一喜一憂するのか不思議だった。お腹いっぱいで睡魔がどんどん訪れる。

しかしその場を離れ難い理由があった。暗い部屋に浮かぶテレビの灯り、独り占めできる母の優しい膝枕、ウィスキーを飲む父がグラスの氷を揺らすカラカラッという音、祖父母の方言交じりの野球批評・・、天国のような五感に包まれてウトウトとすることが至福の時間だったのだ。でも意地でも瞼は閉じられない。「あら、寝ちゃったのね」と気付かれ、寝室に連れて行かれるのが絶対に嫌だった。

そんな家族たちは写真の中だけの存在になり、今は独りのリビングルーム。そして今夜は野球ではないが、ワールドカップの準々決勝、アルゼンチンVSドイツの戦い。「よーっし!」と声をあげる私の足元で、与六が柔らかく寝転んでいる。テレビを見ている時は必ずテーブルの下に陣取って、画面と私の顔をチラチラ見ながら、ネムネムの細い目を開けて付き合ってくれるのである。

アルゼンチンVSドイツ
いつも側に
テーブルの下

ありがとう、ママが大好きなんだね。私も小さい頃は、茶の間の家族が大好きだったよ。もう一度あの頃に戻れたらどんなにいいだろう。

父は老人ホームで介護度5・身障1級。母は再婚して音信不通。祖父母はとっくに他界した。それも人生だし、大なり小なり誰もが通る道。時の流れの仕業に溜息をつきながら、足元に小さなぬくもりをくれる家族がいることを幸せに思っている。

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