心の年輪のボキャブラリー

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音楽関係のコーディネートをしている友人から、弾んだ声で電話があった。今年1月に作詞してCD配布したJF全国漁青連の団歌「いざ大海原へ」が、全国2万人の会員の各代表が集う場で発表されたという。九段会館での前夜祭では作曲者が弾き語りをし、あくる日の総会では全員で唱和。日に焼けた海の男たちの歌声がホールに響き渡ったのを想像するだけでも、パワーを貰えた気分である。

 

歌詞の出だしは『♪もやいを解けば 日の出は近い♪』なのだが、どうして漁師のことを詳しく知っているのだろうと驚かれたらしい。父が道楽で買った釣り船に子どもの頃から乗せられていたこと、友人たちのヨットでクルーをしているうちに専門用語を覚えたこと、今では逗子の小坪漁港で漁師さんたちとお酒を酌み交わす付き合いをしていること・・、いろんな要因が混じって海のボキャブラリーが身についたのだと思う。

 

振り返れば、作詞を始めた若い当初は人生経験が乏しかった。原稿用紙を埋めるのは、今付き合っているボーイフレンドとの出来事であったり、小説や映画から探してきたワンシーンであったり、ネタ探しに七転八倒したものだ。

 

詞にメロディが付き(もしくはメロディに詞が付き)、一発で通ることはまず少ない。ディレクターや歌手本人からの注文が返ってきて修正作業に入る。彼らが年上であればあるほど、自分の薄っぺらい人生観を見透かされた気がして、置き換える言葉探しに悩むのである。哲学書や宗教書を読み漁り、「愛とは何か」「生きるとは何か」の知恵を貰ったところで、絵空事の詞に実感が伴わないギャップに苦しんだ。

 

当時に比べたら、参考書がなくともスラスラと言葉が湧いてくる自分に驚いている。生きた言葉を得た背景には、毎晩泣き過ぎて瞼を腫らした辛い経験や、こんなに幸せでいいの?というほどの大恋愛もある。涙も笑顔も、これまで出会った沢山の沢山の人たちから貰った置き土産なのだろう。

歳を重ねるほど若さを失うけれど、心の年輪は増えていく。ティーンエイジの初恋も、未亡人の哀しみも、孫と手をつなぐおじいちゃんの愛も、何だって書けそうな自信。紆余曲折の人生でやっと手に入れた天職は、これからが本番スタートである。

コメント

  1. 的は逗子の素浪人 より:

    バームクーヘンを焼くのも結構大変だけど、
    管理人様は、年輪をじっくり重ねてきたんですね。

  2. yuris22 より:

    的は逗子の素浪人様

    そうですね。これまで10人分ぐらいの人生を経験したように思います。乗り物の中や病院の待合室など、ぼんやりと昔を思い出していると、いい退屈しのぎになります。

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