天狗に案内された鞍馬寺

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大学生の夏、友だちと2人で京都を旅したときのことだった。喧騒の市街地を避け、旅のメインに選んだのは叡山電車で行く貴船・鞍馬。涼風が渡る貴船川沿いの旅館に荷物を置き、夕食までの数時間で鞍馬山に登ることにした。山門駅のケーブルカーは終発の時刻。お客は私たちだけだ。帰りは歩いて下りればいいねと、両脇に赤い灯篭が並ぶ線路を上った。

2分足らずで多宝塔駅に着き、参道を歩くと本殿金堂(本堂)へ。扉はすでに閉まっていて、ヒグラシの鳴き声だけが響く境内には人影がない。

「せっかく来たのに残念じゃな。宜しければ面白い場所を案内してあげよう」
どこから現れたのか、目の前に白衣白袴のお爺さんが立っていた。鼻筋が通り、長い髭をたくわえた顔は怪しい風情もなく、私たちは自ずと後について行く。

お爺さんが手招きしたのは本堂の地下。暗闇にろうそくの火だけが揺れて、セミの声も届かない静寂さ。不気味さに肩を寄せ合いながら、だんだん目が慣れてきた私たちは息を飲んで凍りついた。迷路状になった棚に見渡す限り、白い壷が並んでいる。まるで魂を閉じ込めたかのように、まあるく膨らんだ壷だ。

「うそっ、骨壷!?」
後ずさりしてお爺さんの姿を探したが、どこにも気配は見当たらない。慌てて飛び出した境内に「ワッハッハ」という甲高い笑い声と、バサバサッと羽ばたくような音。きっとカラスか風の音に違いないと、私たちは一目散に駆け出した。下りの山道でガクガクと膝が笑ったのは、疲労よりも恐怖心のせいだったと思う。

今更ながらウィキペディアを調べてみた。本堂の地下には毘沙門天、千手観音、護法魔王尊が祀られていて、大量の白い壷には修験者たちの髪の毛が入っているという。そして以下の記述が・・。
『本殿金堂の毘沙門天・千手観世音・護法魔王尊はいずれも秘仏であるが、秘仏厨子の前に「お前立ち」と称する代わりの像が安置されている。お前立ちの魔王尊像は、背中に羽根をもち、長いひげをたくわえた仙人のような姿で、鼻が高い。光背は木の葉でできている。多宝塔に安置の護法魔王尊像も同じような姿をしている。このことから「鞍馬天狗」とはもともと護法魔王尊であったと思われる。また、16歳とされているわりに歳をとった姿をしている。』(ウィキペディア―鞍馬寺より引用)

護法魔王尊は背中に羽根、長いひげ、歳をとった姿。もしかして私たちが見たのは天狗だったの!?機会があったらまたあの本堂を訪ねてみたいものだが、お爺さんへのお土産は何にしよう。天狗の好物を検索しながら、夏になるたびに思い出す不思議体験である。

コメント

  1. muha より:

    こんばんは。鞍馬はよく登りました。難しい説法は表記出来ませんが金星と縁もあるそうで真っ昼間でも山中は真っ暗だった記憶があります。健脚自慢(^^)オルゴール鳴らしてくるバスには驚きです。一汗後の八瀬の竈風呂と鴨鍋で一杯が何より一日を締めてくれます。貴船の川床も清涼でフラクタルな朱鳥居も右京太夫さんをフィードバックしてくれます。森嘉の御豆腐美味~

  2. JOE より:

    初めまして。いつも楽しく拝見させていただいております。とても不思議な体験をなさいましたね。鞍馬には何度も行きましたがそのような素敵な?ことは一度もありません。ちょっとうらましいです。あー京都行きたいな。

  3. yuris22 より:

    muha様

    貴船は「ひろや」という旅館が好きで、ぼたん鍋を食べに、何度か冬にも泊まりました。控えめな心遣いと、他のお客に会わない静けさが好きでした。もう古びてしまったでしょうが、紅葉の季節に一度訪ねてみたいものです。

  4. yuris22 より:

    JOE様

    いらっしゃいませ(^^)
    鞍馬山は宇宙パワーがみなぎってる場所らしいですね。次回行った時には大木に抱きついて、空への想いを馳せてみたいと思います。
    「そうだ京都いこう」のCMそのまんま、京都ってある日突然行きたくなります。そういえば先斗町にあるスターダストクラブのマスターは元気かなあ。独りで何時間でも過ごせるバーです。

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