締め切り終えて自己嫌悪

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2ヵ月間にわたり悪戦苦闘した原稿書きがやっと締め切りを迎えた。ファイルをメール送信しても全く気が抜けないのは容赦ない修正を覚悟しているからで、今夜で終わったという解放感は微塵もない。夜明けと共に襲ってくる借金取りを待っているような心境だ。しかも次の仕事が待っている。

 

天職でありたい文筆業に20代から携わって、未だに後悔していることがある。それは能力不足や稼ぎの少なさへの悩みではなく、自分を閉鎖的な空間へ追い込んでしまう許容量のなさへの悩みである。集中して書けば書くほど周りを遠ざけてしまうのだ。悶々としてアイデアを絞り出している最中に心優しい友人たちからご機嫌伺いのメールや電話がくると、とりあえず愛想の良さを振りまいて応体するものの、本心は「お願いだから私に構わないで!!」とイライラする。書けない理由を相手に転嫁させる最悪の状況に陥るのは人徳の無さそのものだ。自己嫌悪。

 

「ちゃんとご飯食べてる?何か持って行ってあげようか」、「インフルエンザが流行ってるから感染に気を付けてね」、「家に籠ってばかりじゃなくて運動した方がいいよ」、「あと少しすれば桜が咲くから頑張って」等々の励ましがいっぱい。なのにメール着信音が仕事を中断させ、てっとり早く返事を書かなきゃと思う焦りが、反応の悪いスマホのキーボードタッチをますます遅くさせる。

 

なんとかメールを片付けてパソコンに集中していると今度は「大丈夫?」の電話。愛想よく普通の会話を心がける自分は偽善者そのものだ。話している間に何時間もかけて理論を積み上げてきたストーリーが一挙に崩れ落ち、また徹夜になるのかの虚無感が押し寄せてくると、もはや誰に怒っていいのかも分からない。

 

スマホの電源を落とす作戦に出たら、相手がクライアントであったときに喰うに困る失態を招く。急ぎでない友人からの連絡であっても、名前を見て無視するのは申し訳ない。よって私がこの業界に入った時には無かった便利なシステムは、締切り催促の直電よりも数十倍のストレスになるのである。

 

私を心配して下さる素敵なお友だちの皆さんへ。そのお心遣いには幾ら感謝しても足りないほどの幸せを感じております。しかし私には食料および生活必需品をリスのごとく溜めこむ習性があり、1ヵ月籠城しても不自由しません。それでも困った時にはSOSを発しますので、順番に大挙して押し寄せて下さいませ。たぶんその時には初夏の緑に囲まれたベランダにBBQセットを用意して、逗子の新鮮な食材を振舞う準備が整っているでしょう。

 

またまた日付が変わってしまった今夜、締め切りを守ったお祝いに白ワインのコルクを抜こう。飲み終えたあとに2日ぐらい爆睡するかもしれないけれど、ニャンコに顔を突かれながらちゃんと生きているから安心して下さいね。

コメント

  1. 国場 より:

    フム 文筆業は大変ですね。
    開高健さんを思い出します。

  2. 町は逗子の素浪人 より:

    「出来た!」とおもったら、
    そこそこ。ふにゃふな・・・
    「そようで、では修正します」
    顔は笑っても、内心納得せず。
    でも仕事の内。
    あぁ...いつおわるねん。

  3. yuris22 より:

    国場様

    友人に「文章を書く仕事は楽しくていいね」と言われて、怒りが爆発しました。書く苦しさは増すばかり。この世にアルコールがなかったら、とっくに辞めています。

  4. yuris22 より:

    町は逗子の素浪人様

    終わった時の達成感。そして途轍もない脱力感。空虚を埋めるためにまた書き始めて・・の繰り返しですね。

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