何日も書斎に篭城してパソコンに向かい、世間から遠ざかった状態の原稿書き。アイデアが枯渇して茫然自失となっているところに、スマホの着信音が元気に鳴り響いた。仲良くさせて頂いているご夫婦の奥さんからで、電話に出てみれば駅のアナウンスと共に泣き声が聞こえてくる。夫婦喧嘩で激昂したご主人が暴れたことにより家を飛び出て、お金もないまま昨夜からずっと外にいるという。
まだ雪も溶けていない寒さ。我が家に泊めてあげたいけれど、散らかった部屋は与六の毛が舞い放題、お風呂にも入っていない私は臭いジャージーを着放題。原稿の締め切りには遅れを取っているし、明日はボランティア団体の会合に幾つか出向かなくてはならない。せめて今夜じゃなければ・・と思いつつ、こんな切迫した時だからこそ降ってきた神様の試練だろうかと縁を感じた。電話代が嵩まないようこちらからかけ直し、冷静に一つ一つ整理するカウンセリング。向こうから連絡はあったの?返事したの? 離婚したいの?まだ好きなの? 彼に心配させてやろうと思う女心が分かりすぎて、よしよしと頭を撫でてあげたいほどだ。
数年前の夜にも似たような状況があった。飲食店のオープンを翌日に控えた友人から電話があり、今から死ぬ~!みたいなパニック状態なのである。何を聞いても嗚咽ばかり。車で迎えに行って家のソファーに座らせ、不安やら怒りやら嘆きやらが混濁した思いを全て吐き出すまで付き合った。朝までに原稿を送らなきゃいけない焦燥感に、こちらも泣きたい気分。なだめすかして家まで送り、明くる日に瞼をこすりながらお客さんとして訪ねていけば、ケロッと元気な顔で「いらっしゃいませ~!」と言われたのには拍子抜けであった。
「今は最悪かも知れないけど、明日の朝になったらそれほどじゃないよ」。
泣いて頼ってきた友人に対して答えるのは、何度もボロボロの思いをしてきた先輩からのアドバイスである。思いつめた孤独の思考、闇に呑まれそうな夜の思考は正常ではない。感情が昂ぶってひっくり返したちゃぶ台は、家に帰れば雑巾で拭いて片付け済みであり、電気釜には1膳分のご飯を残してくれているはず。放っておけば勝ち負けに関わらずとも、人と人との諍いはどちらにも苦さを味あわせるからだ。
1時間ほどして友人から「帰りました」の照れくさそうなメールが来た。良かったね、ご飯を食べて、お風呂にゆっくり浸かって温まるんだよ。彼女からの着信履歴を消して、さあてブログまで書いてしまったツケがくる原稿書き。人口オーナスについて、少子高齢化の日本が抱える危機を論ぜねばならない。とりあえず一つの家庭が元のサヤに戻ったことにホッとし、たぶん今ごろ抱き合っている夫婦から、少子高齢化を解消する宝物が誕生することを願うとしよう。
コメント
初めまして☆
記事を読ませてもらいました。
男性の方かと思いきや、女性の方なのですね!
とてもしっかりとした文章で、とても読みやすかったです♪
物書きをしながら収入・・・羨ましいです。
また、なにかコツなどあれば、聞きたいですね。。
また来させてください☆
奈穂美様
コメントをありがとうございます。
物書きは本当に厳しい職業で、ダメな自分との戦いに明け暮れております。公務員になっていれば良かったとか、今さらながら他の職業が羨ましく思えますが、趣味が仕事になったのですから贅沢は言えませんね。特別なコツはなく、ただコツコツと(笑)です。