羽田健太郎さんが亡くなった。
天才的なピアニストにして飾らない人柄。いつもどうやって人を笑わせようかと、眼鏡の奥で人懐っこい眼がニコニコしている人だった。
羽田さんと初めてお仕事をさせて頂いたのは、加山雄三さんのコンサートツアー。
「父に捧げるピアノコンチェルト」という、加山さんが12年の歳月を費やして作った大楽曲を誰に弾いて貰うかということになり、真っ先に上がったのが羽田さんの名前だった。
スコアを渡された羽田さんはグランドピアノの前に座ると、ミスタッチひとつなく弾きまくる。それが初見だと知り、関係者一同ぽかりと口を開けて感動するのみだった。
酒豪のピアニストといえば前田憲男さんも有名だが、いつだったか渋谷の喫茶店でアレンジの打ち合わせをしたとき、真昼間からビールをオーダーするのに驚いたことがある。
「先生、昼間から飲んじゃうんですか?」
「俺なんかマシな方だよ。ハネケンはピアノの蓋を開けると、中に酒瓶がゴロゴロしてるんだから」
上には上がいるものである。
4月ごろまではピンピンしてたという羽田さんの命を奪ったのは、肝細胞がん。
まだ58歳だというのに、若さが癌の進行を早めたのだろうか。
まだ早すぎる。でも家族でも親友でも止めきれない運命があることを、私も1年前に体験して涙した。
羽田健太郎さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
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