独居老人と千円札

広告

行きつけの喫茶店で、居酒屋のカウンターで、寂しい老人たちとよく出会う。
なぜ彼らが寂しいと思うかは、盛り上がっている会話に割り込みたい様子から察するのだ。

失くさないように首から下げた布袋。
中からシワくちゃな「郵便局」の封筒を取り出して、そうっと覗き込む。
使っていいかな、使ったら今月は厳しいな、でも楽しい今のためだったら・・。
そしてマスターに差し出す千円札。
「もう一杯くれますか? あと、シシャモ。」

きっと月一度おろしてくる年金なのだろう。独り暮らしなのが見て取れる。
音楽の話題にはついて行けないけれど、昔話なら任せとけの顔。
ずっと昔に修学旅行で飛騨高山から、江の島と東京を見に来た思い出を語る。

「石炭列車だったんだよ。」

ドーッと店に花が咲く。「石炭列車だって!?」
「いや、東京までは電化されてたけど、時間がかかって江の島泊まりだったんだ。」
「ふうーん。」
「議員さんが旗持って、江の島を案内してくれてね・・」
堰を切ったように当時を語り始める老人の口調に、徐々に周りは背を向けていく。

 

「マスター、もう一杯!」
テンションが上がった彼の前に安焼酎のグラスが置かれる頃、残った客は私ひとりになっていた。
困った、お勘定は済ませてあるのに、帰るきっかけがない。

「その当時の江の島は今と違ったでしょうね。」
老人に語りかけながら、マスターが私に目配せをくれた。
後ろめたさを感じつつ、さも待ち合わせがある風情で店を出る。

 

そう言えば昔、祖父母との夕食も先に席を立ったっけ。
じれったい退屈さが今は妙に懐かしい。
何度も聞いた話を繰り返すテーブルは、もう記憶の隅にしか存在しないけれど。

コメント

  1. シンジ より:

    はじめましてm(__)mシンジと申します 先週くらいから拝見させていただいてます すごいなぁ、文章のチカラって…と思いました

    感想だけでは失礼なのでURL貼っておきますm(__)m

    http://blog.m.livedoor.jp/ijnihsoresama/index.cgi?sso=0f75f516c4ef244c82d1b49905f1c0078049f286

  2. はじめまして、ウーマンリリースと申します。
    突然の書き込みお許しください。
    とても素敵なブログですね。
    女性向けブログ検索エンジンを始めましたので
    よかったらぜひ当サイトにご登録ください。
    どうぞよろしくお願いいたします。

  3. yuris22 より:

    シンジ様

    いらっしゃいませ(^_^)
    私の文章を気に入ってくださる方が増えるのは、バンザーイ!したく
    なるくらい幸せです。
    ありがとうございます。

    で、貼っていただいたURLがうまくアクセスできないのですが・・(^_^;)
    もしかして携帯からだと大丈夫なのかな。

  4. yuris22 より:

    ウーマンリリース 管理人様

    貴サイトへのお誘い、ありがとうございます。
    恥ずかしながらさっそく登録させて頂きました。

    私の拙い文章が、少しでもお役に立てば幸いです。

  5. シンジ より:

    すみませんm(__)mアクセスは携帯がいいかと思います

    あと、勉強不足で申し訳ありませんが、yuri様が書かれた本や記事など教えていただけませんか?なんでだろ?惹かれます

  6. yuris22 より:

    シンジ様

    ありがとう。携帯から日記を拝見しました。
    急にアニメの恋愛ものが見たくなっちゃったのは何故かしら。
    ピュアな読後感だからでしょう(^_^)

    私の作品はGoogleやYahooで氏名(織田ゆり子)を検索してみて下さいね。

// この部分にあったコメント表示部分を削除しました
タイトルとURLをコピーしました