書き下ろし短篇『織姫と彦星が会えない理由』

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今年もクラス会の案内状がポストに届いた。
田舎の高校を卒業して10年も経っているというのに、僕ら3年C組の結束は固い。集る日が覚えやすいように七夕に近い週末をその日と決めて、「七夕会」という名前を付けた。

新幹線からローカル線に乗り換えた土曜日。これからの予定を思い巡らす。
誰にも会わないように時間を早めにずらし、降りるのは故郷の駅のもう一つ先。
小雨が吹き込む階段を降りると、いつものように軽自動車が僕を待っている。
後ろのシートにカバンを放り投げ、白いワンピースの膝に手を置く。
恥ずかしげに微笑む横顔が「おかえりなさい」。
僕の織姫がギアをドライブに入れる。

 

昔流行った『木綿のハンカチーフ』って歌、覚えてるかい?
僕たちはあれを地でいった野暮ったいカップルで、都会暮らしを鼻にかけた彦星と田舎暮らしを溺愛する織姫だった。心の距離は離れていき、やがて彼女は地元の公務員と見合い結婚、僕は会社の後輩とゴールインした。よくある話だ。

 

そんな僕たちが酔った勢いで、また関係を結んだのもよくある話。
おととしの七夕会、彼女のご主人が不倫したという愚痴を聞いているうちに、ぐでんぐでんに酔った2人は町外れの寂れたホテルで目覚めた。
「家は大丈夫?」
心配する僕に手を振って素顔のままバスに乗った彼女は、その時から大切な恋人になった。
妻よりも愛しい恋人。だけど一年に一度しか会えない恋人。もっと頻繁にと思っても、それが彼女の決めたルールだったから。

 

次の駅を知らせるアナウンスが流れ、電車が速度を落としていく。
改札口を出たら階段を駆け下りて、待っている軽自動車のドアを開ける。
カバンを後ろのシートに・・と、その時いきなり手が止まった。目をきょとんとさせた小さな女の子が座っている。
「娘なの。おじさんにご挨拶しなさい」。

 

ゆっくりと走る窓から流れ込む青い稲の匂い。もうすぐ梅雨が明けるのかな。
七夕会が開かれるホテルまで、3人でのドライブが彼女に会った最後となった。

「どうして?」と聴けずじまいなのは悔しくもあるが、来年も再来年もたぶん僕は情けないオヤジ面を下げて、故郷に戻ってくるだろう。
多分そんな日はきっと雨になり、織姫と彦星のデートは一生叶いそうにない。

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七夕に想いを寄せて即席で綴ってみた物語です。
去年の7月7日に書いた方が出来がいいかも・・(^_^;)

Copyright by Yuriko Oda

コメント

  1. バラ より:

    ヤジになっても甘酸っぱいストーリーには
    弱いな~^^!
    天の川見えなかったですがまあいいか、、、。

    素敵なlove storyに会えたから。

  2. yuris22 より:

    バラ様

    ありがとうございます。
    子供のころからラブストーリーの創作は大好き!特に切ない展開が好きです。

    私個人のノンフィクションとしてはハッピーエンドでありたいと願っておりますが・・。

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