小説家の樋口毅宏さんが、昨日発売された新刊の巻末に異例のお願いを掲載した。公立図書館での貸し出しを、新刊の売れ行きに影響が大きい刊行から半年間、猶予するよう求める一文である。
(YOMIURI ONLINE 2011年2月25日記事より抜粋)
ベストセラーを大量購入する「無料貸本屋」こと公立図書館は、利用者にとってはECOなシステムでも、作家にとっては迷惑千万。樋口さんの新作「雑司ヶ谷R.I.P.」は定価1,600円で初版6,000部。読者が図書館に流れ、そのまま増刷されなければ、一年半かけて執筆した労働の対価が96万円の印税で終わってしまう。貸し出しの半年間猶予を求めるのは、作家が生活していくためには当然の要求であろう。
小説家の場合、貰える印税は本の定価の10%。寝食を犠牲にして書き綴った報酬としては、内職の袋貼りよりも率が悪いかもしれない。日本文芸家協会は、図書館の貸し出し実績に応じた補償金を著者へ払う制度の導入を国に求めているが、実現のメドは立っていないそうだ。
ちなみに作詞家は幾ら貰えるか。音楽の場合1曲につき、レコード会社から徴収した使用料は最低保証金額として6.1円が適用されている。さらにJASRAC(日本音楽著作権協会)から手数料を引かれた額を、作詞者・作曲者・音楽出版社で三等分する。従って10万枚のヒットでも作詞家が貰えるのは、約40万円程度だ。
ただし著作権使用料はCDだけでなく、出版、テレビ・ラジオ・有線の放送、放送用録音、通信カラオケ、インタラクティブ配信、生演奏、ビデオ、CM、外国入金等々の適用があるので、小説家よりは恵まれていると言えよう。著作権は作者の死後50年まで保護されるので、童謡など幅広く歌われて生き残る作品は、一発当たれば孫の代まで恩恵に預かれる。
生みの苦しみはあっても、この世に出た作品は我が子同様。音楽の教科書に載るという話を聞けば、なんて親孝行な子だろうと嬉し涙が出る。
それでも日銭を稼ぐためには、買い取りの原稿書きやらWEB制作やら、起きている時間の殆どはパソコンの前。視力は落ちるし、肩こり、ストレスも溜まる。お酒を飲んで発散し、猫に癒してもらう生活は死ぬまで続きそうだ。
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