秋の夕暮れに漂ってくる焚き火の匂いが好きだ。
それは建築現場でゴミを燃やしている臭いかもしれないけれど、ノスタルジーに浸りたくて、落ち葉を燃やしている匂いだと思うことにしている。
園芸が趣味だった父は初めて手に入れたマイホームで、庭に所狭しと樹木を植えまくった。
最初は小さかった木々も春夏を越すたびに背が伸びて、光合成の葉を沢山付ける。それが秋の深まりと共に庭はもちろん、家の前の道に吹き溜まって、くるくると小さな竜巻を起こしていた。
朝の掃き掃除は母、昼間は祖母、夕方は学校から帰ってきた私。
カサコソと転がる枯葉を追いかけて、掃く傍からまた散り積もっていく。ビニール袋に溜め込んだ葉は、週末になると父が焚き火にして一週間を締めくくるのが、秋の習慣だった。
夕食の支度ができたと呼びに行った母が戻ってこない。勝手口からは1人また1人、焚き火に加わっていき、居間には暖かい灯りが待っている。
それから長い時が流れ、家族は別れ、何度引っ越しをしただろう。
今はみんながそれぞれ気楽なマンション暮らし。今日の私のようにどこかで焚き火の匂いに足を止めているだろうか。
過ぎしにもけふ別るるも二道に行くかた知らぬ秋の暮れかな
『源氏物語』(夕顔の巻)
コメント
「匂い」は人の記憶に刺激を与えるそうです。
時々かぐ匂いに「デジャブーか」と思うのは、その様ですよ。
起源は哺乳類が誕生した頃、弱小ゆえ夜行性で身を守り獲物をとる機能の名残だそうです。
また、焚き火や灯は心を休めますね。
夜 焚き火を囲み語る合うのは、別世界です。
「火」を手にした遠い祖先の記憶が何かを思いださせるかも。
素浪人様
♪かきねの かきねの 曲がり角
たき火だ たき火だ 落ち葉たき
あたろうか あたろうよ
北風ぴいぷう ふいている♪
昔はこんな風景があちこちにあったような。
今の都会っ子たちには実感のない歌でしょうね。
文明は季節の風景を狭めていきます。
私も、焚火の匂い大好きです。特に幼いころ手にしもやけや、あかぎれを作ってどこからとなく漂ってくる、あの匂いがとても心地よかったなぁ~
懐かしもん様
焚火で焼いたサツマイモに憧れています。「石焼きイモとは違う味がするんでしょう?」と誰かに聞いてみたいけれど、都会ではできない風物詩になりましたね。