愛はお金で買えるのか

愛とお金とどちらが大切か、昔から議論されながら結論の出ない問題である。人それぞれ価値観が違うのだから答えが違って当然だが、私の父などは「愛は金で買える！」と断言して、親友と大喧嘩の末に絶交した。

羽振りが良かったころには8人もの愛人を抱え、順繰りに毎晩泊まり歩いていた好色家である。一時期は、道を挟んだ家々に妻と妾を住まわせるという妻妾同居にまで及んだ。「近所にみっともない！」と怒ると、「俺は女が好きなんだから文句言うな！」と娘に楯突く父親であった。
ネックレスや時計などをプレゼントする時は、もれなく全員に同じものを贈る（なぜか私にまでくれた）。愛人同士の電話連絡網が出来ていて、「誰それは貰ったのに、私は貰ってない」と情報が筒抜けになるからである。

しかし脳卒中で半身不随になり、介護施設に入ってからは淋しいものだ。取れるだけの金銭をむしり取った愛人たちは蜘蛛の子を散らすようにいなくなり、二度目の妻も週に一度しか訪ねてこない。唯一の楽しみはベッドから車椅子に移動するとき、介護してくれる若い女性スタッフに抱きつけるくらいだ。
それでも未だに愛はお金で買えると思っているのか、認知症が始まった今は「女の子に10万ずつあげたいから持ってきてくれ」と、女性スタッフたちの名前を口にする。

女には分らない男の幻想。父のような「パパ」願望もいれば、逆ハーレムを狙う「ツバメ」願望もいて、下記のようなスパムメールが網を張っている。

件名 : 即金で先払いします。既に封筒に50万円入れて用意しています。
「お金で何でも買えるようになると、お金で買えないものが欲しくなります。今の私はまさにそういう状況です。（中略）
それが得られるなら１晩で50万円でも惜しくはありません。お金で誰でも買えるホストなんかじゃなく、ごくごく一般の男性と気持ちいい一晩を過ごしたいんです。私の願いを適えていただけませんか？お金は既に封筒に入れて用意しています。ホテルの予約もすぐに出来ます。（以下省略）」

迷惑メールフォルダから削除しながら苦笑するのみ。いったいどんなカモが引っかかるのだろう。お金で買えるのは愛ではなく、人間の飽くなき欲なのかもしれない。