空の屋根の下に集う家族

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昨日は夕方から小坪港で、地元の有志20人ほどが集まる宴会に招かれた。前回は1月2日のみかん投げの後に「豚汁」の鍋を囲む会だったが、昨日は「すき焼き」。漁師小屋の脇では、大鍋に牛肉の煮える甘い匂いと湯気が浜にたちこめている。

集まったメンバーは、食堂の主、漁師、釣宿の船長、魚屋、八百屋、酒屋、議員、マリーナの社長、フリーター等々、みんな「○○ちゃん」のあだ名で呼び合っている。歳の近い面々は、生まれたときから一緒に育った幼なじみが大半なのだ。
「顔を出さないと死んだことにされちゃうからよ~」と、年金生活のご隠居も加わって皺だらけの顔をほころばせる。

全員が大きなテーブルを囲んで座ると、まるで円卓会議。声の大きい海の男たちばかりなので、一つの話題でヤンヤと盛り上がる。噂話、猥談、ほら話、政治ネタ、おやじギャグ。次から次へと笑いが湧き起こる中、「この場所で飲めることは、小坪じゃ最高のステータスなんだ」と主催者が誇らしげに語る。

そこに混じって新参者の女が1人。マリーナの社長から「あれ、織田さんですよね。何でみんなと知り合いなんですか?」とビックリされたのも当然だ。引っ越してきて2年そこそこで、ここまで地元に溶け込んでいるのが自分でも不思議なほどだ。
とはいえ小坪との繋がりはウン十年。父が長年にわたりマリーナにパワーボートを置いていたので、子供の頃から慣れ親しんでいた港町である。ここは週末の故郷なのだと宣言すると、「よーし、納得」のお墨付きをいただいた。

すき焼きに飽きてきた頃、目の前には大きなサザエが登場。上手く中身を取り出せなくて悪戦苦闘していたら、隣のご隠居が「左ぎっちょか。貸してみろ」と、いとも簡単に肝までスルリと抜いてくれる。どうやらサザエの構造は、私のような左利きには取り出しにくい方向に身が巻いていることを知った。おじいちゃんの知恵に感謝。

この町は小さいなりに、顔見知りのみんなが家族だ。帰って寝る家は別々だけど、起きている間は空が一つの屋根なのだ。
周りを走り回る子供たちには危険がないよう、常に誰かが目を光らせている。まっすぐ歩けないほど酔った最長老を、長い階段を上るのを助けながら、誰かが家まで送り届ける。余った食材を無駄にしないようにと、誰かが家から容器を持ってきて取り分ける。

いつか私も充分に年老いて、みんなに「ゆり子ばあちゃん」と呼ばれるようになるのかな。都会の孤独死など無縁なこの町は、週末の故郷から毎日の故郷になりつつある。

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