大黒柱娘が祝う父の日

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世界一のお父さん。ギネスブックに認定された男性長寿世界一の田鍋友時さんが亡くなった。113年の人生に授けられた子孫は、子供5男3女、孫25人、ひ孫53人、やしゃご7人。日常生活はほとんど介助なしで出来た上に、家族に看取られてご自宅で亡くなられたのだから、拍手をしたくなるほどの大往生であっただろう。

 

折りしも田鍋さんが亡くなった同日、体の不自由な79歳の祖母に「なんで言うことをきかないんだ」と殴って死亡させた、千葉市に住む30歳の男性が逮捕されている。無職の彼は母に代わって祖母の介護を担当していたというが、昼も夜もない老人介護という現実がエンドレスに続くことにキレたのかもしれない。悲しい罪だと思う。

 

ちなみに私の父は介護付き老人施設に入っていて、身元引受人である以外は一人娘に拘束はない。トイレや車椅子の乗り降りのたびに父を抱えて下さるケアスタッフの方々には、いつも頭が下がる思いだ。
「ここに入って良かったね」と感謝しながら、それでも見舞いに行くたび、いたたまれない気分で胸が張り裂けそうになる。加速度をつけて進行していく老いに、こちらの認識が追いつかないからだ。

 

私の顔を見れば「元気か?」じゃなくて、「お腹が空いた。何持ってきた?」。
落ち着かずパニック症状になったあとに、ションボリして「おしっこ出ちゃった」。
リハビリを嫌がるのを叱れば、涙をポロポロ流して「いじめにきたのか?」。
「あらまあ、しょうがないわね」と笑いながら、今は私が親になり、父が子供になった。実家で暮らしていた当時はなるべく顔を合わさずにいた、煙たいオヤジだったのにである。

 

ワンマン経営者で、愛人を囲って、食道楽で、車やカメラが好きで、酔っ払って「みちのくひとり旅」を歌って、温泉の手ぬぐい集めを趣味にしていて、食後は爪楊枝でシーシーと嫌な音をたてて、娘の水着姿の写真をこっそり持ってて・・・。思い出とは、日ごと薄れていく記憶のアルバムだ。

 

20世紀フォックス映画が「父の日」にちなんで行ったアンケート。高校生の娘をもつ35~60歳の父親100人を対象に「理想の父親像」を聞いたところ、「優しくて友だちのような父親でありたい」が47%と、半数近くを占めたという。

私の父にはあり得ない回答だと思いながら、もしかしたら心が不器用すぎて娘に近づけなかったのかもしれないと察した。今は甘えきっているわがままな顔を見ながら、また「しょうがないわね」の苦笑い。一家の大黒柱は、昔叱られてばかりいた娘に移行している。

 

明後日は父の日で、我が家では81回目。どんなプレゼントを持っていってあげようか。大好きなマグロの中トロを待ち望んでいるだろうなと、食べることにしか興味が無くなった赤ちゃんに、にやりと嬉しそうな顔をして欲しいと願う「大黒柱娘」である。

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