色と匂いと音がした旅

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今年の夏は、子猫を迎えたばかりなので旅行はお預け。しかし窓を開けたまま寝ていると、潮の香りを運ぶ南風に導かれてか、懐かしい旅の思い出を夢に見る。

夏休みで最も印象的だったのは、小学校低学年のころ、寝台車に乗って行った四国への旅だった。ルートを正確に言えば、東京駅から岡山県の宇野駅まで寝台特急列車「瀬戸」に乗り、宇野駅から四国の高松駅までは国鉄・宇高連絡船に乗る。そして高松駅からは予讃線に乗り、祖母が住む愛媛の伊予西条駅まで行く長旅だった。

「さあ、走るのよ!」
途中、猛ダッシュしなくてはならないポイントは、連絡船から降りて高松駅のホームまで。また長時間揺られる列車の座席を確保する競争だった。後に聞いたところでは、宇野駅、高松駅、窪川駅は「四国三大走り」と言って、接続列車やバスに向けて乗客たちが先を争うことで有名だったらしい。

息を切らした高松駅のホームで、今も懐かしいのはディーゼル列車の臭い。さっきまでの磯臭さは立ち消え、乗客たちがハンカチで鼻を押さえる油臭さが私は大好きで、おばあちゃんの田舎に来たのだと胸をワクワクさせたものだ。

遠い昔になればなるほど、旅の思い出は何故か匂いや色、音で残っている。
車内販売で買った冷凍ミカンの鮮やかなオレンジ色と、甘酸っぱい香り。
開いた窓と併走する広大な田んぼと、緑の稲が放つ青くさい匂い。
停車時間の長い駅で、シャワーのように降り注いでくる蝉の鳴き声。

「いよさいじょう、いよさいじょう・・」
これから夏の一ヶ月をすごす田舎で、やっと辿り着いた駅のアナウンスは、絵日記のプロローグのように聞こえた。

ブルートレインの「瀬戸」は「サンライズ瀬戸」に変わり、瀬戸大橋が出来たことで宇高連絡船は廃止され、電化された予讃線は単線区間を運行するスピードが全国トップレベルとなった。もう連絡船から乗り継ぎ駅まで猛ダッシュする必要もない。

今になって不思議に思うこと。確か初めての一人旅だったはずなのに、「さあ、走るのよ!」の声は誰だったのか。東京駅で見送ってくれた両親から乗客の誰かへ、次々に手を引いてくれた見知らぬ乗客であったことには間違いない。

はじめましてぼうけん

ポッケにきっぷを にぎりしめて
あかないまどから てをふった

おばあちゃんのいなかへ はじめまして ぼうけん
ひとりだってへいきさ だって おとなだもん ぼくは

ホームでみおくるパパとママが
せなかにきえたら けしきがにじんだ

おうちもみどりも とんでいくよ
しらないなまえの えきこえて

おばあちゃんのいなかへ はじめまして ぼうけん
ひとりだってへいきさ だって おとなだもん ぼくは

ちゃんとついたら げんきですと
ともだちみんなに えはがきだすんだ

おばあちゃんのいなかへ はじめまして ぼうけん
ドアがあいて よんでる あのなつかしい におい

きょねんもあそんだ なつのうみが
おおきくなったと むかえてくれたよ

Copyright by Yuriko Oda

コメント

  1. 大熊ねこ より:

    素敵な詞ですね(^^)
    ホームでは、夏の海と一緒におばあちゃんが優しい笑顔で待っていてくれたんだろうなぁと想像させてくれました。
    フッと好きな歌を一つ思い出しました。
    ~遊佐未森「夏草の線路」~
    情景がドラマのように脳裏に浮かぶ歌が好きです。
    余談ですが、温泉から帰ってきました。
    非の打ちところの無い素晴らしい宿。
    接客、料理ともに大満足の一泊でした。
    でも、なんだかんだ言っても帰る家があるから、毎度旅をよく感じるんだなぁと思います。
    今日は、高級感の欠片もない自分のベッドで夢を見ることにします(^^;。

  2. yuris22 より:

    大熊ねこ様

    お帰りなさいませ。旅行から戻った時は、夢の日々が楽しければ楽しかったほど、現実に引き戻されるんですよね。だからこそ次はどこへ行こう?の向上心が湧くのでしょう。

    「夏草の線路」は私も大好きです。色も匂いも、歌詞に情景が手に取るように浮かんでくるのです。10年ほどFM仙台の番組を担当していたことがあるのですが、遊佐未森さんは東北のアイドルでした。歌詞はやはり自分の心象風景を反映しているのでしょうね。

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