マンションの敷地内に、緑の実をつけた小木を発見した。蜜柑には見えずカメラを近づけてみると、もしかしてレモンの木?黄色くなった果実なら知っていても、木に生っているのを見るのは初めてだ。
作詞家になる勉強をしていた頃、師匠から何度も聞いた歌を思い出す。PPM(Peter Paul and Mary)の”Lemon Tree”というフォークソングだ。英語の歌詞を日本語に訳してみた。
「レモンツリー」
僕が10歳のガキだった頃、父さんが言った。ここにおいで、可愛いレモンの木から学ぼう。いいかい、恋に溺れちゃいけないよ。お前もいつか、恋は可愛いレモンの木のようだと錯覚するんだろうけどね。
レモンの木はとても愛らしくて 花は甘い香りだ
でも果実はおよそ食べられたもんじゃない
ある日レモンの木の下で、僕は恋人と横たわった
笑うととても愛らしい子で 空には星が出て
レモンの木の下で僕たちは 恋に夢中の夏をすごした
奏でるような彼女の笑い声に 父さんのあの教えを忘れてしまった
レモンの木は愛らしくて 花は甘い香りだ
でも果実はおよそ食べられたもんじゃない
ある日彼女は何も告げずに去った 僕から太陽を奪って
そして彼女が残した暗闇の中で 何があったのか知ったんだ
彼女には別の恋人が出来た ありがちな話さ
みじめだけど賢くなった男が 今は君にこの教えを歌うのさ
レモンの木は愛らしくて 花は甘い香りだ
でも果実はおよそ食べられたもんじゃない
実家から1人暮らしのマンションに移った大学生の頃、女子校育ちで晩生だった私に、初めてのボーイフレンドが出来た。映画やコンサートに行ったり、大学祭に遊びに行ったり、2つ年上の彼は男子校育ちの生真面目くん。いつもジャケットを着た服装は折り目正しく、松田聖子の「赤いスイトピー」じゃないけれど「半年たっても あなたって 手も握らない」だ。
そんな折り、先輩たちに誘われたダンスパーティーで、ちょっと不良な男の子を紹介された。擦り切れたジーンズが似合う同い年。私は生真面目くんとの約束をすっぽかしては、新しい彼とのデートに明け暮れていた。
夕方から雨が降り出したある日。大学の裏門に、生真面目くんが傘をさして待っていた。
「ごめん、これから用事があるの」
「じゃあ駅まで送るよ」
私が雨に当たらないよう、自分はほとんど濡れて歩いている彼は無言のまま。その優しさが鈍くさくて、だんだん意地悪な気分になっていく。
「私、他に付き合ってる人がいるの。わからなかった?」
改札口で言い放った私に、返ってきた言葉は何もない。後にも先にもそれから一切連絡を取ることがなく、ずいぶんと酷な別れ方をしたものだと、心の棘は抜けないままだ。
“Lemon tree very pretty and the lemon flower is sweet
but the fruit of the poor lemon is impossible to eat.”
「レモンツリー」のサビの部分。”poor lemon”の”poor”が相応しい女の子だったと、18歳の苦い思い出である。
追記:
この記事を書いた翌日(16日)、PP&Mのマリーさんが亡くなったと聞いて驚いている。ご冥福をお祈り申し上げます。
コメント
そうだね、心の棘はなかなかなくならないね。
出来なら・・・切ないなぁ。
レモンの木
初めて見ました。その昔恋は甘酸っぱいとかいったものですね(笑)
それにしても、この女の子の気持ちよくわかります(笑)
危険な香に惹かれるんですね・・。
的は逗子の素浪人様
「後の祭り」って経験を繰り返さないよう、今は生きているつもりでもやっぱり不器用です。甘いレモンなんてあり得ないのでしょうね。
marie様
危険な香りですか。私は豊川悦司みたいに、唇が薄く一重まぶたの薄情そうな顔が大好きです(笑)
レモンの木には騙されないタイプ。蛇に睨まれたカエルになるので、全て撃沈して終わっております。
実家のレモンの木にはカラスアゲハが来ます。
幼虫はキモイんですが、滅多に観る事の出来ないアゲハは
優雅で美しいですねぇ。
蝶は姿を変えた故人だ、って話を聞くと余計に気がかりになります。
こまちゃん
カラスアゲハって、人懐っこい感じがしませんか。
散歩してるときに出会うと、前後を飛びながら付いてきます。魂が入ってるのかもしれませんね。
ああ…同じ事があったなぁ
俺も生真面目だったから
彼女がそういう男に走ったんだ
俺もようやく独立して
そんな彼女に30歳近くなって再会した
なんか焦ってて
結婚の話題とか仄めかされたけど…
きっちり振ったぜ(笑)
ヒロシ様
概して自信過剰な人は、昔の恋人をいつでも取り戻せると思っているものです。年齢と共に、相手は経験も成長していることに気が付かないんですよね。ヒロシさんは振ってスカッとしたでしょうね。
うん
俺は競馬の馬だから
ゲートが開く前に賭けて欲しかったわけ
第1レースが終わってからなら誰でも賭けられる
自分を知って信じてついて来た者にしか報いる事はできないよ
馬券は外せば紙屑になる
それが女の恋愛
走るのが男の恋愛
まあ俺より速い馬(女性)なんて
いくらでもいるんだが…