遊びに行く用事はないけれど、雨上がりを待つ日曜日。「待つ」ことについて、私は昼でも夜でも窓を連想する。
両親が共働きで、祖母と留守番をしていた子供時代。夕食と宿題が終わると、2階の窓から駐車場を眺めるのが習慣だった。見慣れた白いセダンが停まり、ブレーキランプがバックランプに変わる。ドアが開くのを見た瞬間、慌てて布団の中に飛び込む。母が仕事から帰ってきたのを見つけるのが、温かいミルクより何よりもの安眠剤だった。
幾つかの恋を経て、作曲家と暮らしていた海沿いのマンション。放送台本を1本書き上げる度に、次の構想を練りながら7階の窓から道路を見下ろす。10分だけのつもりが20分、30分と、子供の頃と同じように赤いブレーキランプを待っていた。彼の帰りを確信すると、ガスコンロの火をつけてシチューを温め、仕事に没頭しているふりをする。
窓辺で待つことは何時間でも苦ではない。そんな無駄な時間を過ごすなら、電話して帰宅時間を聞けばいいものを、自分から確かめることは出来なかった。
「遅くなったから東京に泊まるわ」
「録音が徹夜になりそうなんだ」
対象が愛する人であるほど、落胆する返事をもらうのが嫌だったからだ。
時は過ぎても、自ら想いを伝えられない不器用さは相変わらずだけど、今は待つより待たせる側になった。リビングの窓辺で辛抱強く、私の車が停まるのを見張っているのは猫の与六。アンテナの耳をピンと立てると、玄関に移動してドアが開くのを待ち侘びている。
ごめんね、遅くなったね。でも君には「もうすぐ帰るよ」がテレパシーで届いているよね。
あの時の母も彼も、家の窓辺に届くよう、心で語りかけながらアクセルを踏んでいたかもしれないな。
コメント
待つことって「楽しみ」でもあり「悲しみ」でもありますよね。
恋愛だと、楽しい事が多かったような・・・?(笑)
一番嫌なのは体調不調での検査結果待ち。
あれほど心臓に悪いものはありません。
試験の結果待ちも嫌だったなぁ・・・。
待っても、待たせたことないなぁ
今もは恋を待っている・・・
marie様
試験の結果待ちは、自信があるときは待ち遠しかったんですけどね。マズイときには点数もろくに見ずに鞄に放り込んでました。今でも夢に見ます。
的は逗子の素浪人様
男性の場合、恋は待つものでなくて探しに行くものです。それを女性は待ってます。