手っ取り早く泣きたい人が増えたのだろうか、『世界の中心で、愛を叫ぶ』の頃から、主人公が死ぬ映画が増えた気がする。病気であろうが心の悩みであろうが、死なない結末を選択する映画が観たいと思っていたところに、京橋テアトル試写室での試写状が送られてきた。2010年1月23日から公開の日本映画『すべては海になる』である。
主演は佐藤江梨子と柳楽優弥。27歳の書店員と17歳の高校生という設定だ。
援交ブームの10代に沢山の男と付き合ってきたけれど、上手くいかず傷ついてばかり。愛を探す本を読み漁って書店員になった夏樹は、訳知り女と思われながら、いつも淋しい。
学校ではイジメの標的。家では高慢で暴力をふるう父、抜け殻になって万引きを繰り返す母、登校拒否の妹に耐えている光治。1人で家族を立て直そうとしながら、孤独に負けそうになる。
ジャンルとしては恋愛映画でも青春映画でもないが、不幸のコンビニみたいな2人がバツの悪さを見せ合いながら繋がりを探していく姿は、どんな年代の人が観ても自分に被る部分があるだろう。
「17歳で死にたいと思ったことのない奴なんて、よほどの幸運の持ち主か、ものすごいバカのどっちかじゃないの?」という光治の台詞に、その昔「何もかも捨てて、死んじゃったら楽になるのに」と思った、青い過去を思い出すのだ。
原作・脚本・監督の山田あかねによれば「すべては海になる」のタイトルは、人間はいずれ死んで土になり海に帰っていくことを意味しているという。いつかは海の底に沈むなら、急いで結論を出さなくてもいいんじゃないか。今は息をするのさえ遣り切れなくても、過ぎてしまえば笑い事になるんじゃないか・・、そんな方向に結末を引っ張っていく。
ラストシーン近く、2人が仕事と学校をサボって海に行くと、監視員のおじさんから声がかかる。もうすぐ満潮になり、ひとたび大波が襲ってきたら今いる場所は海の底になる。死にたくなければ早く岩場から上がりなさいと。いとも簡単に死ねる状況にある2人がどんな行動をとるか、清々しい結末に気持ちが救われた。
TOKYO FMで映画寸評を書いていた頃は、本編が終わりスタッフロールが流れる時間はThinking timeだった。試写室のロビーで待ち構えているスタッフから「どうでしたか?」の声がかかるからだ。約2時間を楽しませてくれたことに対し、しゃれた感想をプレゼントしなくては申し訳ない。
今回は、前を歩いている女性がターゲットとなり、「面白かったですよ」と返答していたが、それはないよね。もし私なら「雨が上がった気分です」とか「主人公の2人が羨ましくなりました」と答えただろう。実際に、きっと上手くいく2人の未来が羨ましくて仕方なかったのだ。
観賞後の余韻を自分に置き換えられるのが「良い映画」というもの。私の人生も結論が出るのはまだまだ先だと、傘をさして街を歩く足取りが軽くなった。
コメント
確かに、ラブストーリーものは主人公かその相手が病気で死んでしまう映画が毎年上映されてましたね。
何で、必ず誰かが死ぬ映画ばかりなんだろう?と思いつつ、「こんなにも誰かを愛する事や気持ちって忘れてしまった大人が多いのでは?」と思うところもあったり・・・。
もちろん誰もが我が息子や娘は無償の愛情があるのは当たり前のことですが・・・。
今度、上映される映画の内容は愛情とは何か?家族とは何かを考えさせられそうなあらすじですね。
「援交」と言えば、4年前くらいに携帯小説のドラマ化や映画化でものすごいブームを引き起こしてましたね。
本にもなり、8冊も買い漁り夢中で読んでました。
marie様
この映画のプロデューサーは「ドラゴン桜」「チーム・バチスタの栄光」「おひとりさま」等のドラマ・プロデューサーなのですが、試写に伺った次の日に丁寧なお礼の電話を戴きました。「たまにはこういう映画があってもいいでしょう」と控えめな自信に、きっと公開後は高評価を得る予感がしました。続編が観たい映画です。
こんにちは!私もこの映画が無性に観たくなりました。公開後の各紙レビューが楽しみですね。最近は後味の悪い映画が多く、見応えのない映画ばかりと感じているのは私だけでしょうか。週末にメリル・ストリープ主演の『Julie & Julia』という映画を鑑賞し、久しぶりに心が軽くなりました。パニック映画や特殊効果ばかりの映画に辟易している方にはオススメですよ!
華梨様
メリル・ストリープ、大好きです。しかも料理が主役の映画となれば、お腹を空かせて見に行かなくちゃ。
映画評論をしていたころは、作品を2つ3つとハシゴして観たものですが、今は1作品だけと決めています。その理由は余韻を楽しみたいから。『Julie & Julia』を観た後は、きっとフランス料理店に駆け込むことでしょう。