高い戒名か自分の名前か

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鎌倉霊園にある我が家のお墓には、祖父と祖母が眠っている。お参りの時は墓誌を洗いながら2人の戒名を頭に入れるのだが、未だ覚えられない不心得者である。カトリックの学校で育った私には、洗礼名はイメージできても、院号・道号・位号のシステムが分からない。

祖父の戒名は鎌倉の腰越にある万福寺から戴いた。源義経が鎌倉に向かう途中に逗留して、頼朝への嘆願状を書いたことで知られる寺である。祖父が亡くなった時、およそ信仰には興味のなかった父は、万福寺が祖父母の信奉する宗派であるという理由だけで葬儀を行い、戒名をお願いした。
檀家でもないのに、由緒ある寺は見栄っ張りな父の自尊心を満足させ、戒名は高級外車が買える値段だったそうだ。しかし葬儀料も含めると「マンション一軒分取られた」と、酒を飲むだびに本音を愚痴っていたのを思い出す。

4月11日のJ-CASTニュース「平均231万円日本の葬儀代 詐欺同然超高額のカラクリ」によると、日本の葬儀費用は海外に比べると飛びぬけて高いらしい。アメリカが44万4千円、イギリスは12万3千円、ドイツは19万8千円、韓国は37万3千円という平均値に対して、日本は231万円。
その理由は、仕入れ値に対する販売価格が高すぎることだ。5千円の棺を10万円で売り、300万円で購入した祭壇を1回100万円で何度も使い回す、利益率9割のビジネスだという。大切な人を失った悲しみで冷静さを欠いている家族を、まんまと利用するのは悪徳商法じゃないだろうか。そこに戒名料も加わって、ランクによって値段がどんどん吊りあがる。

戒名で最も高いランクとされる「院号」は、生前に寺院や宗派に対して、或いは社会的に高い貢献をした人に付けられるものだという。うちの祖父母を思い出せば、毎朝お仏壇に手を合わせていただけで、特別高い貢献などしていない。それでも僧侶から「院」を貰ったおかげで、あの世では蓮の上に座り、一方で戒名のない故人たちは地獄に落とされてしまうのだろうか。

来世には通じない俗名と言われても、私は今の名前が好きだ。芳名帳に書くと、やたら苗字が目立つ頭でっかちな氏名だけれど、祖父が名付けてくれて、両親が何千何万回も呼んでくれて、友人・知人たちが覚えてくれた名前は、死んでも持って行きたい宝物だ。

いつか自分の番が来たときには葬式も要らず、戒名も要らず、とりあえず墓誌には現世名を刻んでおいて欲しい。私を探してきてくれた誰かが、懐かしんでくれる名前で待っていられたら幸せである。

コメント

  1. 華梨 より:

    こんにちは!仏の世界は平等だと思っていましたが…戒名は迷惑だなぁ。

  2. 的は逗子の素浪人 より:

    去年、車一台分持っていかれました。でもまあ納得かなア。
    きっと生前の人徳でしょうね。にぎにぎしく送れました。
    しかし、戒名は院ではありません。悪いけど値切りました。

  3. ナツ より:

    昨年12月に実家の母をなくし葬儀をしました。田舎の葬儀は見えの張り合いです。戒名は院がついていました。
    350万の香典では足りなかったと言います。
    私も織田さんと同じ考えです。戒名も要らず家族葬でよいと思っています。
    こちらのブログには三年ぐらい前から伺っていますが以前一度コメをさせていただいたことがあります。
    はじめて伺ったのはまだ逗子のマンションに住んではいないときでした。
    マンションのテラスで一緒に過ごす人がいたのだという事を書いていたことを覚えています。
    いまは可愛い与六に癒されていますね。

  4. 猫太郎 より:

    バツイチ子供なし、アラフォーの私はいったい誰に看取られるのだろうかと最近よく考えるようになりました。
    お葬式だって誰が?
    遺書には猫太郎のお骨と共に海に帰してほしいと書いておけば迷惑かけずにいけるかな!

  5. yuris22 より:

    華梨様

    そうですね。来世で必要なものなのか、行ってみないことには分からないのも困ります。御利益グッズにしろ、人間の信仰ってお金が関与すると、ありがた迷惑なものが生まれますね。

  6. yuris22 より:

    的は逗子の素浪人様

    遅くなってごめんなさい。故人のご冥福をお祈り申し上げます。
    沢山の方々に見送られた旅立ちは、充分に「院」の意味を果たしたのではないでしょうか。

  7. yuris22 より:

    ナツ様

    私のささやかな歴史を読んでいただいてありがとうございます。凄く嬉しいです。
    今の私にとって、与六は恋人よりも大事かも・・。身体の調子が悪い時に気遣ってくれるペットなんて初めてです。きっと中に誰かが入ってるんでしょうね。

  8. yuris22 より:

    猫太郎様

    昨年亡くなった友人は、バリの海に散骨して欲しいと遺書を書いていました。私もその時がきたら分骨してもらい、片方はお墓に、片方は与六と一緒に湘南の海に撒いて欲しいと思います。霊園は動物の骨はダメらしいのですが、ペットだって家族なのに、淋しいですよね。

  9. セン より:

    はじめまして、
    センと申します。

    ビジネスブログ100選から来ました。

    お葬儀の世界って、
    ウスウスそんなところかもとは
    思ってましたが、
    利益率9割とは恐れ入りますね。。。

    応援していきます。

  10. yuris22 より:

    セン様

    応援ありがとうございます。
    結婚式ならまだしも、お葬式にサービス価格はありませんものね。ケチるわけにはいかない家族の心境の、痛いところをついた商売かと思います。

  11. marie より:

    お墓は人生で二番目ぐらいに高い買い物ですよね。

    戒名と言えば、私が未だ小学生か中学生の頃に近所のお寺の和尚さんと檀家の方と「戒名のつけ方が悪い」とかものすごいトラブルが起きてました。
    そこのお寺さんは私が幼児の頃まで「保育園」も一緒にやってました。
    なので、挙句の果てには「お前のところの保育園に通わせたせいで子供の育ちが悪くなった」だのあることないこと言い出したそうです。
    私的には良い思いでが大きいので、トラブルが起きたことだけで教育への文句まで言うのはどうなのかなぁと思いました。
    結局は和尚さんを追い出し、現在は北海道にいるそうです。

  12. yuris22 より:

    marie様

    それこそ「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ですね。保育園はお寺の敷地の有効活用なのでしょうが、どんな宗派にせよ、信仰の場と共にあるのは良いことだと思います。お寺さんの金欲に結びつかなければ・・の話ですが。

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