何の苦労も知らないお嬢様

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私の陰口を言う人は女性が殆どだ。しかも内容が決まっている。
「金持ちの親に、『蝶よ花よ』と育てられたお嬢様」だそうだが、本人から言わせてもらうと「貧乏な親に、なけなしの夢を託して育てられた愛娘」である。

祖父が会社を潰して一家離散し、四国から上京してきた両親は、藤沢市片瀬の狭い長屋を借りて暮らし始めた。それまで銀行の支店長だった父は営業が得意で、日産のセールマンとして成績トップに輝き、発売一日前のフェアレディを最長ローンで購入するまでに至った。しかし祖父の借金の返済で、生活が苦しいことには変わりなはい。

それでも父は夢を追いたい。エレクトーンが発売された時には、寝場所がなくなるのも構わず、娘のために買い与えてくれた。ピアノよりもまずエレクトーンが、精いっぱい見栄を張った最初の習い事となったのである。

当時YAMAHAエレクトーン教室は数が少なく、江ノ電と東海道線を乗り継ぎ、横浜まで行かなくてはならない。仕事が終わった母に付き添われて週に一回、すし詰めの電車で泣きながら通ったのだが、終わってからデパートを見て歩けることが唯一の楽しみだった。

何も買わないのが約束なのに、私は文房具売り場で見つけたお習字セットが欲しくてたまらない。だだをこねて動かない娘に根負けし、母がお財布を取り出した時は、天にも昇る嬉しさだった。しかしその買い物のせいで帰りの電車賃がなくなるほど、我が家は貧乏だったのである。

公衆電話のダイヤルを何度も回す母。「ここでパパを待ちましょう」と、日が暮れて寒々しいベンチに二人座った。数時間後にやっと車で迎えに来た父は、私に対し妙に機嫌がよく、母は無言のまま。どうやら愛人の家に転がり込んでいた父を、呼び出したらしい。

なけなしの千円札を使った母には、父を呼び戻せる理由が出来たのかもしれない。娘のレッスンに毎週付き合ったのは、自分までエレクトーンを習うお金がなかったからだろう。貧しくてギクシャクした夫婦関係を、なんとか繋いでいるのは一人娘への期待だけ。私には苦労を見せないように働き続け、ミッションスクールに入れてくれたけれど、学友たちの間で長屋住まいは私だけだった。

この後も話はずっと続くのだけれど、私が大人になるのを待って家を出て音信不通の母、脳溢血で倒れて半身不随になり介護施設にいる父。今と昔の二人を想う度に、切なくてたまらない。

そんな事情を知らない人には勝手に言わせておけばいいし、「けなす代わりに、ほめ倒し!」という日記に書いたように、陰口の応酬をする気はない。何の苦労も知らないお嬢様に見えるのは両親のおかげだと、感謝の気持ちが増していくのみである。

コメント

  1. marie より:

    「何の苦労も知らないお嬢様」ですか・・・。
    実は私にも当てはまる陰口なんです。

    以前にもお話したように私が生まれるとすぐに離婚をした両親。
    父親側に引き取られた私は祖父母に大事に育てられながらも金銭的には貧乏のどん底でした。
    それでも、精神的には祖父母に甘えて育った私。
    今でも感謝しています。
    何の事情も知らない他人から見たら本当にただ恵まれて育った苦労の知らないお嬢様なのかもしれません。
    まぁ、「お嬢さん」と言われてきたのは悪いことばかりではありませんでしたけどね(笑)
    以前の職場では「所帯じみてない」「お家に帰ったらご飯が出来ている」「お嬢さん」を自分を少しでも若く魅せる売りにしてました。

    人は勝手に色んなことを言います。
    良くも悪くも。言いたい人には言わせておけばいいんです。

    「何の苦労も知らないお嬢様に見えるのは祖父母のおかげ」です。
    それと、貧乏ながらも私立高校の学費を三年間出してくれた父のお陰でしょう。

  2. yuris22 より:

    marie様

    ありがとうございます。心強いです。

    実は陰口を言う女性の中の一人が、お嬢様大学の後輩だと知った時はショックでした。逗子の某飲み屋で出会う時は、「せんぱーい!」と笑顔で寄ってくるんですよ。
    でも彼女が不倫している男性が、私のことをニックネームで親しく呼ぶのが気に食わなかったようです。人の彼氏を取る気なんて全くないのに、嫉妬して陰口を振りまいたんでしょうか。後輩が先輩を立てて敬うのは、男だけのルールなのかな。

    その女性よりもっと性質の悪い、顔で笑って陰で悪口の人が沢山います。「そう言う貴女は何なの?」と突っかかりたい衝動を抑えながら、こうしてブログで愚痴ってる自分は、同じ穴のムジナかも?

    それでも鼻も引っかけられない人間よりは、騙されても利用されただけ幸せと思う方が良いのかもしれませんね。神様は見ていると信じています。

  3. smotsu より:

    こんばんは。

    「何の苦労も知らないお嬢様」

    これ意地悪な言葉ですよね。
    もう、ムカっ腹立っちゃいます。

    私の両親は借金を返しながらお店を経営して私と姉を育ててくれました。
    お客さんは立派な方が多かったので、
    バブルが崩壊して生計が苦しいとか一切言えないし
    商売を続けるために少しでもうちも豊かに見せるために両親は相当苦労してました。

    なのにその上辺だけ見て、
    定休日の後には「お金持ちだからいつも休めて羨ましいわ」、
    繁盛期には「おたくは趣味でやっててそんなに儲かるなんていいわね~」、
    未婚のアラサーである私には「お嬢さんはいいわよね~」とわざわざ言ってくる人もいます。

    嫉妬するよりも彼を虜にするくらいの
    いい女目指して奮闘するほうが
    ずっといいと私は思っていますが、
    残念だけどそうやって突っかかってくる人って
    心が貧しいんです、きっと。

    お嬢さんに見えるのは
    内面から気品と美しさがついつい溢れ出てしまうから!
    祖父母と仲が良かった人は
    相手の気持ちがわかる
    心優しい人が多いです(ちなみに
    両親が忙しかったので私もお祖父ちゃん、
    お祖母ちゃんっ子です)!
    以上!

    心の大きさや温かさがわかる人にはわかる、
    そう信じています。

  4. yuris22 より:

    smotsu様

    コメントを頂いて、とても嬉しいです。
    どんなに嫌がらせを受けようと、過去の辛い思いを周りに話さないのは、武家の(お嬢様の)プライドなのでしょう。心貧しき輩は自ずと滅びていくもの。同じ立ち位置にいては、自分も泥沼にズブズブ入っていくのだと思います。笑って無視がいちばんですね。

    万人に好かれるピエロになる必要はなく、分かってくれる人の価値に感謝したいと思うこの頃です。

  5. ファンも多いけど私を嫌いも多い
    武井泄月袴デス
    はじめまして
    織田さんの文章はとても知的で素晴らしいと
    思っていました
    誰にでもいろんなご苦労がありますよね
    ワタクシなどは
    何の苦労も知らないお嬢様
    を大きく飛び越し
    「生意気な女」と言われています
    たぶん・・・

    まーそれも
    褒め言葉
    と思っておりますが・・・
    唐突に失礼いたしました

  6. yuris22 より:

    武井泄月袴様

    いらっしゃいませ。
    生意気な女って言われるのは、個性的でチャーミングな証拠でしょう。クソババアなんて言われないよう、いつまでも枯れずにいたいですね。応援しています!

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