ビフカツから想う実家のご馳走

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家族が揃う土曜日の夜、食卓に並ぶご馳走はどんなものが出てくるのだろうか。私の実家では圧倒的にステーキが多かったように思う。

平日は東京暮らしでも、週末は鎌倉の家に戻ってくる父を喜ばすため、母はステーキ肉をいつも用意していた。日が落ちるまで庭の手入れをした後、シャワーを浴びた父が階下に降りてくるのを待ち構えて、ニンニクの芳ばしい香りがキッチンに広がったのを覚えている。

しかしある晩のこと。懐かしい料理を思い出したと、ステーキ肉に衣をつけて揚げた「ビフカツ」なるものが登場した。四国で生まれ育った両親にとってはビフテキよりもビフカツの方がグレードの高いご馳走だったらしい。その昭和テイストな呼び名は、戦後の高度成長期にあったニッポンの洋食そのものである。

先日、日本橋「たいめいけん」にてフルコースディナーの会食に出席した。昭和6年創業の洋食屋で、個室の調度棚には歴史を感じさせる繊細な食器コレクションが飾られている。

日本橋たいめいけん
個室の飾り棚
一皿でお腹いっぱいになりそうな前菜に始まって、スープ、魚料理、肉料理、特製ラーメン、デザートまで平らげると歩くのさえ苦しい。私のぽっこりと膨らんだお腹を見て、メンバーの一員である美容外科医が「う~ん、これは100万円コース!」と値を付けた。

前菜
〆のラーメン
コースのメインディッシュはビフカツ。サクッとナイフを入れると、ピンク色した牛肉の断面が現れる。何十年も前に昭和の紳士淑女たちが同じ味に舌鼓を打っていたのだろうと想像すると、部屋全体がタイムマシーンみたいに思えてきた。

ビフカツ
家のキッチンでの揚げ物料理からは遠ざかった独り暮らしの身。本音を漏らすと炊き立てご飯のおかずとして、特製デミグラスソースよりもウスターソースをかけて食べたいな。とうにない実家の食卓を恋しくさせるビフカツは、家族だんらんの懐かしい時代を連れてくる魔法の一皿である。

コメント

  1. 的は逗子の素浪人 より:

    ビフカツ! ウスターソース! 最高!

  2. yuris22 より:

    的は逗子の素浪人様

    トンカツには醤油かソースかの議論がありますが、ビフカツも同じですよね。デミグラスソースは論外だと思っております。
    この会食で「お箸を戴けますか?」の声が上がり、皆が同意しました。洋食とは日本人の文化だと思います。

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