ポーチドエッグ専用鍋と五分咲き桜

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アートディレクターの大御所であるW氏が金曜の晩に亡くなったという知らせが届いた。御加減が良くないとは聞いていたけれど、こんなに早く向こう側に逝ってしまうとは思っていなかった。最後に姿をお見かけしたのは鎌倉駅のホーム。W氏が経営するバーに友人たちと飲みに行き、店内でも駅でもバッタリと出会った数年前の夏だったと思う。白いシャツの袖を捲ってチノパンを履いた姿は遠くから見てもすぐ分かり、軽く会釈して反対側の電車に乗った。

食へのこだわりが強かったW氏からはシンプルでレトロな調理道具を幾つか戴き、それを使ったレシピも教わった。ルッコラのサラダにかけるドレッシングの作り方、上に載せるポーチドエッグの茹で加減。その際に使うのがドイツの蚤の市で買ったというポーチドエッグ専用の小鍋である。

内心「電子レンジで作った方がずっと簡単なのに」と不満だった私は、この小鍋を戸棚の奥へ仕舞ったままにしていた。今朝になって引っ張り出し、気付いたのは小さな形見からのメッセージ。よく使い込まれて凸凹になった鍋は錆さえも愛らしく、卵一個を割って載せるパーツは持ち手や水抜き穴など究極のシンプルさで出来ている。W氏にとってはこの調理器具を使うこと自体がアートだったんだろう。

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スマホに訃報が届いたのは、葉山の友人宅でBBQパーティーをしていた昨日。野菜にはこの塩をかけると美味しいと、偶然にも直伝の調味料「ろくすけの塩」を皆に勧めた後だった。

今年の桜はまだ五分咲きなのに逝っちゃいましたか。シガーの煙をくゆらせ、鼻眼鏡でフンと笑うあの独特の表情が懐かしい。「良く生きて良く死ぬ」というインディアンの諺通りに生きられたのか、本音は聞けずじまいだった。

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